ここしばらくの(*)大テーマ(^O^)である化学調味料(うま味調味料)の話を進めたくて、いろいろ調べている。
(*)この↓あたり、主にラーメンとの関係で話をしている。
・アイドルのエッチと、ラーメンのうま味(当ブログ)
・ラーメンだって作っちゃう(笑)(黒猫亭日乗)
・Do you know MSG?(黒猫亭日乗)
・短絡的なのはどっち?(当ブログ)
・自重しない化調(当ブログ)
(おまけ)
・ラーメンの秘密(当ブログ)
まだ考えをまとめるところまでは来ていないが、とりあえず材料となるべき知識の断片を箇条書きにメモしておこうと思う。
これらは主に『うま味調味料の知識』(太田静行)、『うま味―味覚と食行動』(栗原堅三、大村裕、山本隆、木村修一、福家真也、河村洋二郎)、あるいはネット上の情報による。
間違いや問題の指摘、大歓迎。
- うま味調味料として現在、広く使われているものはグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムと、後2者をだいたい等量に含むリボヌクレオチドナトリウム。グルタミン酸ナトリウムがアミノ酸系であり、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムは核酸系。
- 日本では食品添加物の使用は、厚生労働大臣が指定したものに限られる。この制度が始まった当初(昭和23年7月)からグルタミン酸ナトリウムは食品添加物として指定されている。以下、その名称・簡略名・指定時期。
L-グルタミン酸ナトリウム
(簡略名:グルタミン酸ナトリウム):昭和23年7月
L-グルタミン酸(簡略名:グルタミン酸):昭和39年7月
L-アルギニンL-グルタミン酸塩:昭和39年7月
(簡略名:アルギニングルタミン酸塩)
L-グルタミン酸カリウム:平成3年1月
(簡略名:グルタミン酸カリウム)
L-グルタミン酸カルシウム:平成3年1月
(簡略名:グルタミン酸カルシウム)
L-グルタミン酸マグネシウム:平成3年1月
(簡略名:グルタミン酸マグネシウム)
5’-イノシン酸二ナトリウム:昭和35年9月
(簡略名:イノシン酸ナトリウム)
5’-グアニル酸二ナトリウム:昭和35年9月
(簡略名:グアニル酸ナトリウム)
5’-リボヌクレオチド二ナトリウム:昭和35年9月
(簡略名:リボヌクレオチドナトリウム)
5’-リボヌクレオチドカルシウム:昭和43年3月
(簡略名:リボヌクレオチドカルシウム) - グルタミン酸は昆布や野菜、イノシン酸は魚や肉類、グアニル酸はきのこ類に多く含まれている。
- うま味を持つ物質はかなりの数のものがある。しかし、これらの中で食品にうま味を与える調味料として、適当な値段で、安全性が確認されており、使用法も難しくないもの、簡単にいえば、気安く使えるものはかなり限定されてくる。
(……つまり、現在使用されている化学調味料の成分は、たくさんあるうま味物質の一部にすぎない。そして昆布にしろかつお節にしろ何にしろ、それらのうま味物質が複雑な割合で混在し、さらに他の呈味物質(甘いとか辛いとかいろいろ)も含んでその味ができているわけで、「グルタミン酸ナトリウム? 昆布入れてるのと一緒でしょ」とわかったような顔をするのは間違っている。
うま味調味料はうま味のある食品の一部のうま味なのであり、全てではない。当然、グルタミン酸ナトリウムで昆布の味は再現できないし、昆布でグルタミン酸ナトリウムの味を再現することもできない) - グルタミン酸ナトリウム以外にうま味を呈するアミノ酸には、例えばこんなものがある。
日本産のキノコであるハエトリシメジやイボテングダケは、イエバエを殺す作用がある。これらのキノコから単離した殺虫作用を有する2種類のアミノ酸(L-トリコロミン酸およびL-イボテン酸)は、強いうま味を呈する。うま味の強さはグルタミン酸ナトリウムの4~25倍にも及ぶが、副作用があるため食品には使用できない。 - グルタミン酸ナトリウムについて、急性・亜急性・慢性毒性試験、多世代繁殖試験、催奇形性試験、変異原性試験など各種の安全性試験が種々の実験動物で行われ、発がん性や遺伝毒性のない安全な物質であることが確認されている。
- グルタミン酸は食品や生体のタンパク質とを構成する20余種のアミノ酸の1つで、タンパク質中約20%と、最も豊富に含まれるアミノ酸である。また、タンパク質に結合しない遊離の形のグルタミン酸も、天然の食品や生体の各種の臓器・組織にたくさん含まれている。
- タンパク質それ自身はごく少数の例外を除いて味がない。たんぱく質の存在するところには、その分解産物であるアミノ酸が存在するので、アミノ酸はタンパク質の存在を示すシグナルとして働いている。
- グルタミン酸がほとんどすべての食品に広く分布する一方、イノシン酸はその分布が動物性食品に限られている。
グアニル酸の呈味はイノシン酸と同質で、味の強さが異なるだけ。 - グルタミン酸のうま味はコンブだしの研究から発見されたが、コンブがグルタミン酸製造の原料とされたことはない。
- うま味の閾値(いきち)
閾値とは特定の味を感じさせるための最少の濃度のこと。鹹味・酸味・甘味・苦味・うま味の5基本味の代表的な物質の閾値は、鹹味(食塩)0.2%、酸味(酢酸)0.0012%、甘味(ショ糖0.5%)、苦味(キニーネ0.00005%)、うま味(L-グルタミン酸ナトリウム0.03%)となっており、5基本味ではうま味は3番目に閾値が低い(高い)ということになる。 - グルタミン酸ナトリウム(MSG)の閾値は0.03%、イノシン酸ナトリウム(IMP)の閾値は0.025%で、ほぼ等しい。ところがMSGが濃度を増すことによる味の強さ(呈味力)の増し方が大きいのに比べ、IMPの増加は小さい。
グルタミン酸ナトリウムなどの濃度と味の強さ
しかしIMPは、MSGとの共存下では強い呈味力を発揮する。 - アミノ酸系(MSG)と核酸系(IMP/GMP)は、それぞれ単体で存在するよりも両者が混在することでうま味が相乗的に増すことがわかっている。これを「うま味の相乗効果」という。
- うま味の相乗効果は、山口により詳細に研究されている。
MSG/IMPの量比と呈味力の関係(山口)
図を見るとだいたい左右対称になっているので、同じ比率であればどちらが多い比率であってもほぼ同じような呈味力であるらしい。
図によると、だいたい8:92あたりの比率までは急激に呈味力が伸び、そこから傾きが緩やかになるものの22:78あたり?くらいまでは呈味力の上昇はある。 - うま味の相乗効果は顕著なので、うま味調味料は普通、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、イノシン酸ナトリウム(IMP)、グアニル酸ナトリウム(GMP)を単体では使用せず、アミノ酸系(MSG)と核酸系(IMP/GMP)を調合している(複合うま味調味料)。複合うま味調味料は含まれる核酸系の量によって、低核酸系と高核酸系に分けられる。低核酸系の代表が「味の素」(MSG:リボヌクレオチドナトリウム=97.5:2.5)があり、高核酸系の代表には「ハイミー」(MSG:リボヌクレオチドナトリウム=92:8)や「いの一番」(ハイミーと同じ)、あるいは「フレーブ」(MSG:IMP:GMP=91.5:4.25:4.25 つまり アミノ酸系:核酸系=91.5:8.5)などがある。
- 味の素は【MSG:リボヌクレオチドナトリウム=97.5:2.5】となっているが、上記山口による図から見て、この比率を逆転させても同程度の呈味力が得られると思われる。しかしそんな調味料はない。味の素とハイミーは核酸系の比率が5.5%違うだけだが2倍の価格差がある。(核酸系は製造コストが高いらしい)
- うま味の相乗効果は、イノシン酸やグアニル酸が存在すると、舌の味覚細胞に対するグルタミン酸の結合量が増加することによって起こるということで説明できる。
- うま味の相乗効果の意味
・料理には動・植物両方の素材をバランスよく取るという合目的的に働く。
・だし自体の味はそれほど強くなくても素材のうま味成分との相乗効果を引き起こすため、出汁やうま味調味料を加えることで素材のうま味を引き立たせる。 - 唾液中には微量(0.15mg%程度)のグルタミン酸が含まれていることから、核酸系うま味物質が単独で示すうま味は唾液中のグルタミン酸の効果によるもので、それ自身はうま味を持たない可能性がある。実際、イノシン酸単独の閾値や識別域は唾液レベルのグルタミン酸によって引き起こされていることが示されている。この観点からすれば、核酸系うま味物質はうま味物資というよりは、うま味強調物資と考えることもできる。
- うま味の弁別閾
呈味物質の濃度を変化させた時、その変化が感覚的にわかる最少の変化量を弁別閾という。グルタミン酸ナトリウムの弁別閾は10%。つまりMSGの0.1%溶液と0.11%溶液を比べても、うま味の強さの識別がつく。
突然食いたくなったものリスト:
- コロッケパン
本日のBGM:
Like Hell /LOUDNESS
2 個のコメント
お疲れ様です。いやあ、知れば知るほど「うま調」の世界は奥が深いものですね(笑)。興味深い情報をご紹介戴いて有り難うございます。内容についてのコメンタリーは「その2」がアップされた後にじっくり考えたいと思いますが、現時点で言えるのは、美味しんぼ流の脊髄反射的な全否定は論外として、うま調を使うか使わないかが重要なのではなく、使わないのであればどのような理由があって使わないのかが重要なのだし、使うとすればどのように使っているのかが重要なのだと謂うことですね。
>黒猫亭 さん
>美味しんぼ流の脊髄反射的な全否定は論外として、うま調を使うか使わないかが重要なのではなく、使わないのであればどのような理由があって使わないのかが重要なのだし、使うとすればどのように使っているのかが重要なのだと謂うことですね。
ですね。「全否定は論外」です。
それを取っ払った上での当たり前の検討が、なかなかやりにくい話題であったわけですね。
そしてその背景には以前「シンパイスナ、アンシンスナ」というエントリで書いたような、「安全」と「安心」は必ずしもしっかりと一致するわけではない、という事情があるという認識は、ちゃんと持っておいた方がよさそうです。