最近、いい新店に巡り会ってない。
うまい店を再訪することはよくあるけども、一度書いたら次からはその繰り返しになるだけだから、再訪以降の店はよほどのことがないと面白くないから新たに書く気にならない。(最近のいくつかの店の新メニューについては何か書くかもしれないけど……)
で、今回もまたネガティブな評価の話になって申し訳ない。
これは別に私がことさらに「辛口」とかいうわけじゃなく、たまたまあまりいい評価ではない新店が重なったと思っていただけたら。
……ただ、ほめる店はやっぱりほめとかなくちゃいけないとは思ってるんだ。ネガティブ評価だけなら誰でもできるわけで。
よくあるよね。人の好みにケチだけつけて、「だったらアンタのオススメは?」って聞かれて何も答えないってパターン。自分の方がケチつけられるのが嫌だから。
そういうのは嫌なので、ほめる店もちゃんと書こうとは思ってる。
ただ、今回はネガティブ。勘弁して。m(_ _)m
先日来、黒猫亭さんのところでも化調についての話をしているが、タイミングよくというとか何というか、化調とラーメン店についてなかなか考えさせる店に巡り会ってしまったので、その店について書こうと思う。
ただ、今回の店は家族経営であとがないような雰囲気もあるし、できれば潰れずに方向転換して頑張ってもらいたいので、店名は出さないでおく。
この店の一番目立つ特徴は、「健康」に気を使い、無化調を標榜しているということ。店先でも大きな貼紙で「無化調ラーメン」を謳っている。
店内には
・国産品使用、輸入品の場合でも安心・安全なもののみ使用
・レトルト食品は排する
・全て店で仕込む
・合成調味料・合成保存料・着色料一切不使用
といった「約束」が掲げられ、さらに自店のラーメンについてこんな解説をしている。
……当店のラーメンは和風の豚骨ラーメンでございます。化学調味料は使用せず料亭で使われる昆布、鰹、煮干しでだしを取りそこに豚骨と鶏がら、野菜を加えて20時間以上強火にて煮込んでおります。背脂による油分は白濁スープの中に含まれるものになるよう極力抑えております。のどごしがさっぱりして味わい深くなお且つ豚骨の味がきいて食べ応えのあるものに仕上げております。巷に溢れているような油ぎってこてこてで、化学調味料をいっぱい使った胸やけするような豚骨ラーメンとはわけが違います。まさに健康ラーメンといえるものでございます。1度目はさっぱりしていると感じられるかわかりませんが2度目になるとその良さが解って頂けると思います。…… |
「巷に溢れているような油ぎってこてこてで、化学調味料をいっぱい使った胸やけするような豚骨ラーメンとはわけが違います」という長ったらしい文章に、店主の想いが乗っかっているのだろう。
しかし、だ。
しかし。
申し訳ないが、言わせてもらう。この店主はラーメンをナメている。
「無化調」ラーメンに分があるとしたら、それは「味」のみならず客の立場に立った選択が行われそうだという蓋然性にある(もちろん化調使用の店が客の立場になっていないという意味ではない)。私自身は化調の健康への影響については懐疑的ではあるけれど、店主がそう思っていることについて悪いとは思わない。店主がそう思っていて、あえて無化調ラーメンを標榜するということはきっとそれなりの努力をしているだろうと思わせるし、何か選択をする際に「客の体」を優先する選択がなされそうだという期待まで抱かせる。
ところがこの店は「想い」だけが独走してしまい、「無化調」を標榜するからにはそれなりに要求されるはずの努力がどうにも足りないように思う。「ムカチョー」は魔法の呪文じゃないぞ。
この店ではラーメンとつけ麺を食べた。煮玉子やチャーシューなど個々のパーツを見れば普通以上においしいと感じる部分もあるのに、いかんせんつけ麺、ラーメンとしてはダメなので困る。特にラーメンはヒドい。
スープは「化学調味料は使用せず料亭で使われる昆布、鰹、煮干しでだしを取りそこに豚骨と鶏がら、野菜を加えて20時間以上強火にて煮込んで」いるそうだが、輪郭の見えないぼやっとした味になっている。これがいいか悪いかはわからないが、正直、あまりウマいとは思わない。
黒猫亭さんのところで摂津国人さんが言っていた表現を借りると、化調には味を「キメル」効果がある。これは確かにそう。だから化調を使う店はこの部分はあっさりとキメルことができるが、無化調というのならそれとは別のきめ方で仕上げなくてはならないはずだ。しかしこの味は、単に「化調を使うはずのラーメンに化調を入れなかったラーメン」にしか感じられないのだ。おそらくは野菜なんかを入れるのが悪いんじゃないかと思うが、こればかりはプロじゃないしよくわからない。
いずれにせよ、「無化調」だけで味がよくなると思ったら正反対の大間違いで、むしろかなりシビアな味の検討が必要なはずだ。それをスポイルしているように思える。
それは化調使用のラーメンを「油ぎってこてこてで、化学調味料をいっぱい使った胸やけするような豚骨ラーメン」だと認識している点でもわかる。この認識なら、化調と油を入れなければウマくなると思っても不思議じゃない。
このあたりが「無化調」を謳うラーメン+売れないラーメンの1つの典型じゃないかと思う。
もちろん同じ「無化調」でも、それなりの戦略と自信の味で勝負している店はたくさんあるわけで、これはあくまでもたくさんある中の1つの悪い典型に過ぎないのだけども。
で、こういう「無化調ならウマー」みたいな認識の店がどういうことに陥るか。
今までスープのことを書いてきたが、このラーメンで一番インパクトがあり、そしてこの店の問題点を象徴するのは、実は麺だ。
食べた瞬間から、キョーレツなアンモニア臭がする。
きっと化調よりもこっちの方が体に悪い。(^O^)
たまたまだろうと思ったが、以前この店に来たことがある友人は前もそうだったという。替玉もそうだった。
うへえ。
アンモニア臭の原因にはいろんなものがあるそうだ。麺の材料、保存状態、そして茹で湯の状態など。
なんかね、渋研Xさんのところ(「オーガニックと栄養価と安全性:わかっていないのは誰か【追記あり】」)で見た、「無農薬を謳うために農薬に指定されていないストリキニーネを使う」みたいな話と同じものを感じる。本末転倒。ウマいものを食わせたいのか自己満足を食わせたいのか。
※ちょっと誤解を生む書き方だったかも。無化調とアンモニア臭には直接の因果関係はないです。
アンモニア臭の麺というのは、品質管理の敗北だ。
「無化調」を謳うのはいい。その合理性はともかくこういうものは結局は「想い」なのだから、どんな道を通ってでも「すべてはお客様の『うまい!』のために」というゴールに向かっていれば、客としてはいいのだ。
しかし「無化調」にあぐらをかいて(本人はそんなつもりはないのだろうが)、それが自動的に『うまい』に結びつくと考えそれ以上の努力がないがしろにされるなら、それは「化調を入れまくって胸焼けするラーメンを作ってる手抜き店」とどう違うのか。
たとえ化調を使ったラーメン屋だって、たいていの店は客の『うまい』に真剣に向き合っている。この店は「無化調」にすること以外、何をしたのだろう。真剣に味と客の健康を考えている店がアンモニア臭のする麺を平気で出せるだろうか。直前に味見さえしていない、あるいはしていても「これでいい」と思っているということだろう。
これがこの店主がラーメンをナメている、と書いた理由だ。
この店の主人はそれまで10年間うどん店をやっていたそうだ。うどん店から見ればラーメンはそんなにスキだらけの商売に見えるのだろうか。
こういう姿勢は他の店の努力への侮辱でもある。
なのに「営業努力」はしようとする。
この店には店主とタレントとの対談が載ったという雑誌が紹介されている。『KANSAI Walker』に紹介されたとも。
これもアレだ。
『KANSAI Walker』が単なる有料ワクってのはまあどこでもやってると言えばそうだから、まぁこのくらいはするだろうと思う。
しかし前者はなぁ。
これ、突然店に「地元密着で頑張ってらっしゃるお店を紹介したいので、タレント連れて取材に伺いたいんですが~」なんて電話営業があって、喜んでよく聞いてみたら「取材協力費」なんて名目でカネを取られるというありがちな話だ。宣伝のためにはいくらか払ってでも……という新店の弱みを上手く突いた形を変えた広告営業(この雑誌はそういうやり方で結構有名)だけど、そうか、引っかかっちゃったかぁ。
インタビューに来たタレントの名前を出して「○○さんもそのうまさにうなった『本当に旨い』」とか書いてるのが何ともうら寂しい。
ここまで典型的なダメな店というのもそうはない。
こういうところでカネを失うよりは、しっかりと自分が作ってるものに向き合うべきだと思う。
この店も、きっと1つ解ってくれればまだ何とかなる可能性は残されていると思うんだ。全部自前の厨房で仕込みを行っているのなら、志さえあればそれをできるチャンスは毎日ある。チャーシューや煮玉子はそこそこウマい。立地だって悪くない。努力の方向が見当違いというだけ……と思いたい。楽観的すぎるだろうか。
ちゃんとした「味」は、胡散臭い雑誌よりよっぽど集客効果があるんだよ。
「無化調だから味はそこそこでいい」なんて考えてたら、客なんてつくわけない。健康だろうがチャーシューがウマかろうが、ラーメンがマズいラーメン屋は潰れる。その前に気づいてほしい。奥さんも息子も頑張ってるんだから。
頼むよ。
問題の1つは、この店主の「ラーメン観」があまりに古いことだ。
この店、おそらく麺は製麺所から買っている。自家製でやっているのなら普通アンモニア臭のする麺なんて出すはずがないので。
ところが上記「約束」には「全て店で仕込む」と明記されている。きっと事実と違うことを書いているという認識はないのだろう。ラーメン屋は「麺以外」を作り、麺はスープに合ったものを製麺所から買う……これが10年前の大阪の常識だった。つまりこの店主の認識は10年前のものなのだ。10年間うどんをやってきて、それまでに培ったラーメン観をアップデートすることなくこの世界に入ってきたということだろう。
この辺りにも「ナメている」所以がある。
せひ一度、猛勉強をしてもらいたい。今の繁盛店を食べ歩いて、そして必要であれば誰かに教えを乞うてほしい。これは奥さんと息子さんのためにも。
その上で「無化調」でやるならそれはそれでいい。ただ現状は、あなたがやっている「無化調」標榜は、8万円出して雑誌に載せてもらってハクがついたと思っている程度の「軽さ」しかない。
自分で食って「ウマくてたまらん。しかも健康的!」と思うラーメンこそを、是非目指してほしい。
☆ この世の良いものは、法律で禁じられているか、不道徳であるか、食べると太る。
── バルドの公準。『マーフィーの法則』より。
|
突然食いたくなったものリスト:
- 麺野郎の丼
本日のBGM:
Warp 7 /SCANNER
1 個のコメント
もう10年以上経ちましたが、変化はあったのでしょうかね…こういった事に気付かないでそのまま突き進む可能性もありますが…