コーラの前をムカデダンスで横切るヤツ

 「ゲボバ飲料」というジャンルがある。
 
 簡単に言えば、「マズい清涼飲料」。
 
 清涼飲料水業界はカップラーメン業界などと同じく、新製品がたくさん出るがほとんどが定番になることはなくワンロット~数ロットで終わってしまう。このことを見越してか「数打ちゃ当たる」というスタイルで押してきている(業界では「千三つせんみっつ」というそうだ。1000の商品を出して生き残るのは3つにすぎない、と)。コンビニ時代になるとその傾向は加速したようにも見える。

 そうなるとバリエーションも多岐にわたり、たまに「信じられないくらいマズいもの」も出てくる。私はこれこそが「文化」だと思っているのでこのこと自体を否定するつもりは毛頭ない。

 そしてそういう動向の帰結として、ある商品を指して「あれはマズかったな~」と盛り上がることも出てきて当然ということになる。

まずいものの話は必ず盛り上がる。まずいもののまずさについては誰もが雄弁になる。うまいものではこうはいかない。
「うまいですね、これ」
「うん」
で終わりだ。
 結局、「うまさ」は「まずさ」ほど切実な感覚ではないのだろう。

── 小田嶋隆『我が心はICにあらず』

 そういう、数多く現れては空しくも消えていった「信じられないくらいマズい清涼飲料」を「ゲボバ飲料」と呼んで愛でる悪趣味な(^O^)文化が、これまた存在するわけだ(呼び方は人それぞれかな)。

 ゲボバ飲料はその当然の帰結として、短期間で姿を消してしまう。なのでそのゲボバ感を共有できる人というのは実はさほど多くない。特に世代間の差が大きい。それはまあ仕方がないだろう。飲めた人はその世代の特権だと思ってその幸運に感謝し、飲めなかった人はその時代に生まれなかった自らの運命を、あるいは飲もうと思わなかった自分の嗅覚の悪さを呪うがいい。

 ……と、前置きが長くなった。
 
 ある世代の人たちにとって、ゲボバ飲料の話になると絶対に名前が出てくる、超定番の飲料がある。
 
 それはサスケ維力ウィリー
 サスケ(1984年)はサントリー、維力(1987年)はポッカが出していた。
 
 今回採りあげるのは、サスケ。
 
 現在のサントリーはペプシの販売権を得てコーラに関してはイケイケだが、当時はそのまんま「サントリーコーラ」という全然おいしくないコーラを細々と売っていた。自販機や小売店ではほとんど見かけることはなく、サントリー系のビールを置いている飲食店や傘下のハンバーガーチェーンであるファーストキッチンといった、抱き合わせ的な場所で見かけるくらいだった。あと、なぜかごくたまにボウリング場で見かけた気がする。
 
 当時、日本ではコーラはコカ・コーラの一人勝ちで、ペプシも微々たるシェアしかなかった。
 「炭酸飲料といえばコカ・コーラ」に対抗するべく、多くのメーカーが変わった(^^;ものをたくさん出していた。
 
 そしてサントリーがコーラへの対抗商品として出したのが、このサスケ。

 Wikipediaによると、

コーラと同じような黒褐色の炭酸飲料である。リン酸とカフェインが含まれていない点が、他の炭酸飲料とは異なっている。これは消費者の健康指向に訴えたものである。背景としては1970-80年代にかけてリン酸は骨を弱くすると言われ、特にコーラを初めとする炭酸飲料の飲み過ぎは「発育期の子供に良くない」とする風潮があった。
チェリーや柑橘系のフレーバーをつけることで子供にも飲みやすい味にしてコーラとの差別化を目指した

 という。

 サントリーらしく、プロモーションにはかなりのお金がかけられた。
 特に印象に残っているのはCMで、この気合いの入れ方はほんとに凄かった。



30秒バージョン(1984年)


15秒バージョン(1984年)

 商品のコピーは「冒険活劇飲料 サスケ」。
 そしてキャッチコピーは「コーラの前を横切るヤツ」。
 コーラにぶつける姿勢が明確だよな。(^O^)

 このCMは当時としてもノスタルジックな雰囲気で、「仮面の忍者 赤影」のような世界観だった。
 スタッフが凄くて、CMディレクターは当時売れっ子の川崎徹、音楽は坂本龍一、アートディレクターは横尾忠則、コピーライターは糸井重里。

 このCMを私はかなり気に入っているのだけど、おそらくこれが楽しめるのはその前時代の「赤影」などの忍者もの、チャンバラもの、特撮ものの記憶があり、さらに放映当時の、もうそういう時代ではないという80年代の空気の中で見て初めて面白かったのかなという気もする。テレビで冒険活劇を見て育った大人が作ったものだった、ということ。CM自体、テレビ番組のように「つづく」で締められる。
 
 そういう思い出や知識と空気を共有しない世代には「何のこっちゃ?」となるのは仕方がないだろう。

 ……で、ですよ。(^O^)

 やっとここまで来た。
 いや、実はここまでが前置きだった。(^^;;
 すまない、前置き詐欺で。
 
 ここまでの話は「冒険活劇飲料サスケ」でネット検索したらだいたい出てくる。

 今回の話はここからが本題。

 サスケのパッケージデザインがこちら。





冒険活劇飲料サスケ

 みんな拾いもので申し訳ない。

 このパッケージデザイン、誰の手によるものなのか判らないんだけど、なかなかカッコいいんだよね。
 
 Wikipedia等を見ると、これは「市松模様」ということになっている。
 このチェッカー模様は世界的にも汎用的なもので、日本でも昔からあったが江戸時代の歌舞伎役者、初代佐野川市松が愛用したことから「市松模様」とよばれるようになったそうだ。
 「冒険活劇」との絡みでそういう模様を選んだのかな、と単純に思っていた。

 しかし、どうやらそうじゃなかったことに最近気がついた。(^^;
 解っている人には当時から解っていたはずなんだが、私自身は当時そんなこと知らなかったし、ネット時代の今になると今度は逆にサスケ自体の記憶が薄まったからか、ネット上でもそんな話は見つけられなかった。

 だから今、このデザインを見て、「あれれれれ? これって……」と思った人はいるのだと思う。
 
 このデザイン、2トーンレコードというレコードレーベルのアートワークの丸パクリなんだよね。

 これ。







2TONE RECORDS

 丸パクリだよなあ……。(>_<)

 私はこのジャンルの音楽をほとんど聴かないので、まったく守備範囲じゃなかった。
 2トーンレコードはスカパンク、スカロックと呼ばれるジャンルのレーベル。
 詳しい人に聞くところによると、ピストルズの『Never Mind The bollocks』のジャケットがパンクロックのアイコンとなり、何度もパロディやオマージュとして使われているのと同じように、スカパンクの世界ではこの白黒の格子模様がこのジャンルのアイコンになっているそうだ。


THE SEX PISTOLS『Never Mind The bollocks』
(ナウなヤングは知らないかもしれないが、SEX MACHINEGUNSのバンド名はこのバンド名のパロディね)

 2トーンレーベルの筆頭はSPECIALSというバンド(今年も来日した)だが、このレーベルに所属したMADNESSの音楽は、当時の日本の一般人でもこの爆発的にヒットしたCMで覚えているだろう。


初代 CITY CM

 サスケのCMは私がこれまで見た中でもお気に入りのCMの1つで、これは商品自体のパッケージデザインとは関係ないとはいえ、丸パクリと知ってなんか凄く残念な気持ちになった。

 サントリーがこの後発売した「ジェットストリーム」という清涼飲料も、当時放送されていた「ジェットストリーム」というラジオ番組からクレームが入って短命に終わったという情報がネットにある(当時の私たちの感覚では、ジェットストリームといえばラジオではなく黒い三連星を連想したけども)。とすればひょっとしたらサスケも、短命の理由はそのゲボバ味だけではなかったかもしれない。

 ジェットストリームのCM↓。当時人気だったアイドル、チェッカーズと中山美穂を起用している。


サントリー ジェットストリームのCM

 前置きの長い話で恐縮だが、サスケ発売から33年経って初めて知ったショックな事実を伝えたくて、エントリを立てた。

 おつきあいいただき、ありがとう。

 雑談。

 「サスケ」のCMに出てきた女忍者は仙道敦子せんどうのぶこ

 彼女の出演したヒットCMは他にもある。


浅田飴パッション(1987年)

 今は緒形直人の嫁さん。

突然食いたくなったものリスト:

  • ペペロンチーノ

本日のBGM:
恋はパッション /EVE





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