最終解答(ファイナルアンサー)

注:わかりにくい表現や足りないところを訂正・加筆しました。

 今回は、ある本を御紹介。
 えらい長くなってしまったが……。

 私はミステリーサークルのデザインがとても好きなので、たまたま図書館で見かけた『ミステリーサークル・真実の最終解答』(パンタ笛吹著/ヴォイス/2002)って本を読んだのですよ。


ミステリーサークル・真実の最終解答
(パンタ笛吹著/ヴォイス/2002)


 著者は知らない人で、しかも何か変な名前。(^^; インドなどを放浪したヒッピー上がりの人で、コロラド州で寿司バーを経営している。まあこういう場合たいてい著者はアチラ側の人ではあるわけだけども、私の目的は写真だからまあそれは構わない。ただ、表紙に書かれている、
「「神々の指紋」と信じて疑わなかったミステリーサークルの真実を、今明らかにする迫真のルポ!」
という文字に、何となくの期待を抱いた程度。何となくね。

 ところがこれがなかなか面白い本だった。

 冒頭から6割くらいまでの記述は、著者自身がミステリーサークルにハマって追っかけ(新たなサークルができたらすっ飛んでいってそのエネルギーを体感する(^O^)/そういう人を「クロッピー」という)をした話、ビリーバーたちが集まるシンポジウムや学会に出席してそれらの「理論的裏づけ」を知ったり、そこでいろんな人たちと出会ったりの話……などが続く。

 ミステリーサークルが人間では作り得ない証拠が幾つも挙げられ、そこで目撃された発光体はUFOと結びつけられ、その制作者(「サークルメーカー」)は「高次存在」であり、ミステリーサークルのデザインはその「高次存在」からのメッセージであるとされる。しかもその内容は人類の未来への警鐘である……と「解読」されちゃう。

 読み進んでいくと段々わかってくるが、著者は自身の名前を冠したミステリーサークル見学ツアーまで実施しており、しかもテレビの討論番組でビリーバー側として出演したり、あるいはビリーバーを集めてミステリーサークルについての講演まで行っている人物だった。
 このへんで「あらら~」となってしまった。
 これを商売のタネにしているのであれば、だいたい結論も予想はできる。どうも全てが用意された結論に向けて(^O^)進んでいるように思われた。

 なのでかなり不快感を持ちながら読み進めていた。あるときは失笑し、あるときは大笑いしながら。ビリーバーの文章というのは読み進むのにそれなりの精神修養が必要で、ニセ科学批判などでビリーバーと根気よく対話している方などは本当に凄いなあと思う。

 まあそれでも最初から予想していたわけだから、なんとか読み進んだ。
 著者がクロッピーになったのは1998年のことだという。
 ダグ・バウワーとデイブ・チョーリーという2人の老人が「ミステリーサークルはオレらが作った」と告白したのが1991年のこと(「ミステリーサークル – Wikipedia」)で、著者もそれを知っていたが、それ以降にもサークルは作られていたし、信じたい人にはそんな告白は全く意味がなかったようだ。
(その告白は世の中のミステリーサークルの全てを彼ら2人が作ったかどうかよりも、ミステリーサークルが人間が普通に作れるという部分にこそ大きな意味があったはずだが)

 著者は『トンデモ本の世界』(と学会著)のミステリーサークルの項(ダグ&デイヴの告白を受けて92年に『ミステリーサークル偽造大会』が開かれた話)を引用しているのだが、そのあたりの認識がどう変わっていったかの記述はない。どうも実際に目の当たりにしたミステリーサークルの「美しさ」に魅せられてしまい、理屈抜きでハマっていったというのが本当のところのようだ(ミステリーサークルそのものの美しさについては私も大いに同意)。そして著者が足を運んだ学会やシンポジウムでは「ニセモノ説」を主張する研究家は1人もおらず、「人間では作りえない」のは「衆知(ママ)の事実」とされており、「人間以外のだれが、どういう目的で、どんな手段を使ってサークルを出現させているのか? そのメッセージは何か?」という議論がなされていた。そんな世界に身を置いてしまえば、ビリーバーが1人出来上がることなんて容易いことだと思う。

 だから当然彼らの中でダグ&デイヴの評価は低く、「僕の手元に日本の友人から送られてきた」出版物に書かれていたという「マイトレイヤーからのチャネリング・メッセージを長年伝え続けているベンジャミン・クレーム」なる人物との問答として、こんなことを記載している。
 

Q 2人の英国人のアーチストが、自分たちがサークルを作って人々をたぶらかしたことを認めたということですか?
A この2人が、国中のさまざまな場所に、しかも同時に現れた非常に大きな、複雑精妙なデザインの円形を作ったということはまったくありません。
Q 普通の人が作ったミステリーサークルは、イギリスで、そして世界全体で、何パーセントくらいありますか。
A イギリスでは15%、世界全体では20%です。
Q 本物を作るのはだれですか?
A 本物のミステリーサークルは、主に火星と金星からの宇宙船によって、少数がその他の太陽系の惑星からの宇宙船によって作られます。この情報は故意に世界中の政府によって公表を抑えられています。
 サークルは、宇宙の兄弟たちと彼らの飛行船(UFO)による活動の結果です。
 それらは彼らの存在の徴として意図的に作られ、残されたものです。それらの円形の通常ならざる構造と精密度は彼らのより高度な科学性を証明するものです。
……

 
 「たぶらかした」とはえらい言われようだ。(^^;
#しかし「マイトレイヤー」ってやっぱり弥勒菩薩のことなのかな。

 ま、信じちゃった人にはそうなるか。

 もちろん彼らの中では「本物」のミステリーサークルは人間が作ったものではないので、人間がイタズラで作ったものは「人造ミステリーサークル」と呼ばれ区別されている。(^O^)

 冒頭から6割くらいまで、本はひたすらこの調子で進んでいく。

 その途中には、こんな笑っちゃうネタもある。
 ミステリーサークルの写真がIHMで「氷結結晶写真の実験材料」になった話。
 そう、IHMですよ。『水からの伝言』の江本の。

 著者はあるツアーでイギリスに行き、サークルの出現をみんなでお祈りしたら実際に願っていたのとよく似たミステリーサークルが出現したのだそうだ。その写真は後日出版された『ミステリーサークル写真集―1999』(中里精一著/アウル企画)の写真集の表紙を飾ったそうだが、その写真が、「氷結結晶写真の実験材料」に採用されたのだという。


ミステリーサークル写真集―1999


IHMによる実験風景(^O^)


 

 私たちは、このサークルが何らかのメッセージを送っているのではないかと考え、その意味を求める手がかりとしてこの実験をしました。ところが、何とご覧のように得られた映像は、どう考えてもいわゆる”UFO”の形をしたものばかりだったのです。
 これはいったい何を意味するのか、まだはっきりとしたことは言えませんが、この図形の持つ意味合いが、そのまま水を通して結晶という形で私たちに対してメッセージを送っているとすれば”UFOによって作られているのだよ”ということを示唆する図形であると考えられます。

雑誌『波動』2000年1月号より

 
 だってさ。笑わす。
 数十もサンプルを取って、低温の実験室に入って温度上げながら顕微鏡を覗いて数パーセントの確率で数秒だけしか姿を現さない ── なんでUFOさんはそんな、ややこしい作業をしなくちゃわからないようなやり方でメッセージを送ってくるんだ? (^O^) しかもその内容は「UFOによって作られているのだよ」って。(^^;

 さらにロンドン在住のシュバイツァー博士の研究によると、「ミステリーサークルの中のエネルギーのパターンが、水に転写されることが証明された」そうだ。ちなみにこのシュバイツァー博士はあのノーベル平和賞のシュバイツァー博士の孫息子だそうだ。何やってんだよ……。_/ ̄|○⌒

 あるいはこんな記述も。ミステリーサークル内の麦(!)を原料としているのが「売り」のビールを飲みながら。
 

 サークルビールで思い出したが、3年前のアルトンバーンでのサークル学会で、ミステリーサークル・エッセンスを売っている女性がこう話してくれたことがある。
「BLT研究グループがサークルの中の小麦と外の小麦とを、ホメオパシーの手法で検査をしたら、サークルの中の小麦は強い陽性反応を示したそうです。その小麦は何らかのエネルギーの影響を受けて突然変異し、波動や波長が変わってしまっているんです。……

 
 なんだよこういう人たちのこの親和性の高さってのは。(^^;;;
 しかもビールにしろエッセンスにしろ微妙に商売と結びついてるところも困ったもんで。

 ダグ&デイヴの告白以降もミステリーサークルは出現し続け(そして進化し続け)、2000年のシーズン(ミステリーサークルはほとんど麦畑に作られるので、「シーズン」があるのだ(^O^))にはイギリスだけで150個のミステリーサークルが出現したが、中でも研究者を驚かせたのが「ミレニアム4大サークル」と呼ばれる4つの巨大サークルだった。

 こんなの。


「マグネチック・フィールド」


「ひまわり」


「コンピュータ・チップ」(奧)


「シュールな夢まくら」

 3番目の「コンピュータ・チップ」の手前にあるサークルは数日後にできた「ハート」。このサークルの中は「”愛の時代”の到来を告げるかのように、ラブリーな波動にあふれていた」そうだ。(^O^)
 「ここで特筆に値することは、この〈ハート〉のサークルが、〈コンピュータ・チップ〉のサークルのすぐ隣に現れた、という事実だ。それはまるで、サークルメーカーがテクノロジーと心の両方のバランスが必要なことを、人間に教えてくれているようだ」だって。(^O^) もちろん「コンピュータ・チップ」という名前はこっち(人間)が勝手に決めたんだけどね。

 とまあ、ダグ&デイヴの告白にもかかわらず、そういうのは放ったらかしに多くのビリーバーたちは盛り上がり、そしてこんな大作まで出現してをををを!となっていたそんな時期、著者は他のビリーバーとは少し違う経験をする。
 彼は以前にサイババについて「彼こそは真の聖者」と主張する著作を発表しているくらいサイババのファンだったのだが、あるきっかけでその姿に疑問を抱き、取材を重ねた結果、最終的にはサイババのウソを暴いた告発本を出すところまでいってしまう。
 この経験から、「自分自身真実だと信じていたもののなかにも、ただの思い込みがあることもわかった。自分の中に”信じたい”という気持ちがあると、真実が見えなくなってしまうということに気づかされた」という。

 そしてその考えは、ミステリーサークルにも向かう。
 それまで「人間では作れない」ことが前提条件とされていたビリーバー界にあって、「ほんとにそうか?」と思うようになってきたと。

 ここからこの本はガゼン面白くなっていく。

 疑ってかかると見えるものも違ってくる。
 前述の、IHMにもダシにされた『ミステリーサークル写真集―1999』を眺めていると、整然と作られているはずのミステリーサークルの「ミス」が気になった。

【訂正】よく読むと、この「ミス」を見つけたのは『ミステリーサークル写真集―1999』ではなく、著者が持っていた「南イギリスで手に入れた今年のすべてのサークル写真」の中からだった。

 あるサークルの麦の「倒し忘れ」だ。
 これについて著者はある研究家からこんなことを聞いたという。
「もちろん、あれは倒し忘れなんかではありません。高次の技術を持つ宇宙のサークルメーカーが、倒し忘れなんてするわけがないではありませんか。あれはサークルメーカーが、私たち研究家の”サークルを信じる気持ちを試している”んです」
 そんなことをいってしまえばどんな「人造の証拠」が出てきても「本物」だと言い張れてしまうが、ビリーバーにとってはこんな説得力のある言葉はない。
 

 ひょっとしたらサークル研究家も、サークルは宇宙の高次元存在が作ったと信じたいために、さまざまなシグナルを自分に都合のいいように解釈しているのではなかろうか? と考え始めた。そしてこの場合、それらのサークル研究家のなかにはこの僕もまた、ちゃんと含まれているということを自覚した。
 もしそうだとしたら、この八角形のサークルの”倒し残し”は、もしかするとまっ暗闇の中で一生懸命に麦を倒していた人間が、ただ倒し忘れただけなのかもしれない。
 いや、そう考えたほうが常識的なのではなかろうか?

 
 著者のアハ!体験である。(^O^)(^O^)(^O^) (強調は引用者=私)
 そして「信じたいがために」くっつけてきたひねくれた解釈をやめ、「常識的」に検証していくと、多くの謎が解けていった。
 

 僕は謎解きのオモシロさよりも、それまで信じて疑わなかった宇宙のサークルメーカーの神話が崩れていく恐怖を感じた。その時、正直言って自分の中から、こんな声も聞こえた。
「もういい、もうこのへんでやめよう。自分は3年間も、サークルは人間では作りえないと信じてきたのだから。そしてそれを日本中の人々に、伝道者の熱意をもって伝えてきたのだから。今さら”人間が作っているのかも”などと暴露して、恥をかくこともないじゃあないか……」
 しかし、ここでやめれば、サイババの悪事を目のあたりにしながら、それを追及しようともしないカルト洗脳者と同じことになる。彼ら盲信の徒は、「もういい、もうこのへんでやめよう。長い間自分はサイババは神の化身だと信じてきたのだから、その信心は今さら変えられない」と自らの殻の中に閉じこもり続けている。

 
 ビリーバーがここまで冷静に自己を客観視するのは辛いし、だから非常に珍しいことで、その意味で私は著者を素直に賞讃したい。

 著者が疑念を持ったのと期を同じくして、ミステリーサークルに関する学会やイベントで顔を合わせていた研究者数人が、どうもこれは……と疑いを口にしだす。研究者の長老でその世界ではかなりの尊敬を受けていたコリン・アンドリュースも、それまで地球外生物が作ったと思っていたものの80%(100%でないところがミソだが(^O^))は人間が作ったものだと衝撃的な発表をしてその世界から「寝返り者」とされてしまう。

 コリンによるリサーチの結論はこうだ。
 

・1999年と2000年に出現したサークルのうち、80%は人造です。
 ●証拠(1) アウトラインを描くために必須の中心点には、必ず人間が入っていった跡が残っています(竹の穴や不自然な麦の倒され方など)。
 ●証拠(2) デザインは論理的に順番に下図が描かれており、アウトラインの跡が倒された麦の下に残されています。
 ●証拠(3) スタンピング・ボードなどの麦を倒す道具は、ユニークな痕跡を残しており、それらは地上調査や航空写真によって確認できます。

 
 さらに決定的だったのは、著者が友人から見せられた1枚の紙だった。
 これは1983年に出版された『モザイク模様の描き方』(ジョン・ウィルソン著)という本のあるページのコピーだった。

 それがこれ。


『モザイク模様の描き方』に掲載されていた図形

 1983年に出版された本の同一ページに「ミレニアム4大サークル」の全てが収録されていたのだ。\(^O^)/
 ここで著者の目は覚めた。

 そして著者はとうとう数人のコネクションから、ある「サークルメーカー」(もちろん人間)と接触してインタビューするところまでいく。
 彼らへのインタビュー、そしてそれらの情報をもとに自分たちでステリーサークルを作ってみた結果、サークル内外の静電気磁場の差などそれまで「人間が作ったのではない証拠」とされていたことが、あっさりと自分たちの「人造」サークルでも起きてしまうことをつきとめる。
 また、普通に観察すれば見つかるはずの、測量の痕跡の地面の穴を発見する。
 

 この4年間、僕が最も影響を受けたサークルの権威の1人にアンディー・トーマスがいる。彼は講演会で、「サークルの円の中心に穴を発見しても、それは人間が作った証拠にはなりません。研究家が出現したサークルを測量するのに、時々測量ポールを中心に差し込むことがありますからね。また、早めに来たいたずらなクロッピーが人々を惑わすために、わざと穴を掘ってまわったという例もありました」と言ったことがある。
 だから今まで真剣に棒の穴などを探そうともしなかった。実際に穴を発見してみると、もうこれはまぎれもなく人間のなせる業に違いないと確信した。

 
 このあたりも、妄信から醒めた人の証言としてリアリティがある。

 サークルメーカー(人間)たちのほとんどは自分がサークルメーカーであることを隠している。ミステリーサークル作りはたいてい違法(不法侵入、器物損壊など)であるため、当然といえば当然といえる。ただ、1人だけ(正確にはダグ&デイヴ以外に)、逮捕されたためにカミングアウトした人物がいた。著者がインタビューに成功したのはその人物だった。

 そのサークルメーカーによると、彼が知っているだけで20人以上の「サークルメーカー」がいるという。遠く離れた地方には知らないのもいるし、海外の事情はわからないという。

 それだけの数の「人間」サークルメーカーたちが、多くのミステリーサークルを作っていたのだった。

 そのサークルメーカーに繋いでもらい、最終的に著者は彼らサークルメーカーたちから「雲の上の存在」と尊敬を集める、”ビリー・ベイリー”と呼ばれる伝説の巨匠へのインタビューにまで成功する。
 このインタビューで著者はこれまでビリーバー界?で「人間が作ったのではない証拠」として信じられていた事象について、事細かくビリー・ベイリーに質問をぶつけ、明確な答えを得ている。これはなかなか圧巻で、著者は「4年間のサークル学会ではどれ1つ学べなかった疑問の数々が、もつれた紐を解くように明らかにされた」と語っている。

 そしてこの本のファイナルはかなり笑える。
 著者は最初にインタビューしたサークルメーカーたちの協力を得て、長年の夢を叶える。
 それは……。
 著者が経営する寿司バーのマーク(五弁木瓜)のミステリーサークルを作ることだった。


いつもこう

 なかなか面白いオチだと思う。

 さらにさらに。
 黒猫亭さんが調べてくれたところによると、この五弁木瓜の紋は普通、「五木瓜」と書かれるようだ。
 そして読みは、「いつもっこう」あるいは「いつもこう」。

 信じては「いや違った」を繰り返す著者の、最後のオチが麦畑一杯の「いつもこう」とは、なかなかキツめのオチですな。(^O^)(^O^)

 しかもこの「いつもこう」が、「2001年で最も美しいといわれたサークル」で、「イギリス王室の紋章に似ているため、そこから「平和のメッセージ」を汲み取るサークル研究家もいた」(OSATOさんに教えてもらったサイトより)って、どこまで底なしなんだか。

 ドラマチックな本だった。(^O^)
 確かに「最終解答」だ。

 表紙にそれらしいことを仄めかす文章があるにはあるものの、あとは前書きからずっとビリーバー口調だ。だからビリーバーが普通にこれを読み進むとびっくりすると思う。おそらくそれを狙ってるんだと思うのだけども。

 何というか、最初にたまったモヤモヤ感が後半にズズズッと解放されるので、その意味ではまさにミステリ的な気持ちよさがあるのかもしれない。
 いや違うな。最後に五弁木瓜という印籠(織田信長と同じね)が出てくる水戸黄門的な面白さというべきか。(^O^)

 自分の名前を冠したミステリーサークルツアーまでやるほど足を突っ込んでしまった人がここまでひっくり返すとは。これは見上げたものだと思う。

 ただ、著者が「納得」していく過程で、自分(と疑いを持ち出した仲間たち)で実際にサークルを作ってみる部分。
 それまで「人間が作ったものでない証拠」として信じていたことが、実際には自分が作ったサークルにも起きるということが次々にわかってきて驚く。
 感慨深い体験だったと思う……でもこれってほんとは1991年のダグ&デイヴの告白の時からずっと、誰もが自分で試してみるチャンスはあったはずなんだよね。彼らは作り方も公表したんだから。著者たちも最初にそれを参考にやってみればよかった。

 結局、「そんなはすがない」という意識が先に立って試してみなかっただけなんだよなあ。いやむしろ「そんなはずがあってほしくない」だろうな。チャネラーが言った、「2人の英国人のアーチスト(ダグ&デイヴ)が、自分たちがサークルを作って人々をたぶらかした」という表現は、たいていのビリーバーの代弁だったのだろう。

 本人は自身について
 

これまでニセグルやニセシャーマンのインチキを糾弾する本を書いてきた僕は、ゴーストバスターズならぬグルバスターという異名を読者からいただいている。不思議現象に対しては”まず疑ってかかる”辛口のスケプティクス(懐疑論者)なのである。

 
 と書いているが、本書を読む限りはこれはそれほど正確な記述ではなく(^O^)、むしろ「簡単に信じてしまうけれど、途中で出てきた疑いを葬り去らずにいられる」人であるように思える。記述を見ていると他にも結構危ないものをたくさん信じている。(^O^)

 読んでいて面白かったのは、ミステリーサークルがUFOなり「高次存在」なりとのコミュニケーション・ツールだとしている人(サークルメーカーたちの中にもこういう人がいる)の中でも、ビリーバーとサークルメーカーとでは、ミステリーサークルに与えている「役割」が違うということ。

 著者がインタビューしたサークルメーカーは、サークルを作るきっかけについて、UFOを見た体験を語り、「ミステリーサークルを自分で作って”未知なる知性”に応答しよう」とした、と語っている。
 一方、「サークルの幾何学模様はどこから来ているのですか?」という質問の答えの中で、「もし宇宙意識からの”言葉”を伝えるのがチャネラーなら、サークルメーカーは宇宙からのメッセージを麦畑の”シンボル図形”として伝える役割を担っていると言えます」と語っている。

 ミステリーサークルは人類からUFOへの「応答」なのか、宇宙から人類への「メッセージ」(「サークルメーカー」はその代弁者)なのか。これは非常に曖昧で、つまり彼らはそのあたり明確に分けるほど深くは考えなかったということなのだろう。

 ところがこの部分について一般の?ビリーバーたちの認識は非常にはっきりしている。

 この本でたくさんのビリーバーの話を読んで私が不思議に思ったのは、彼らビリーバーがどうして自分たちもミステリーサークルを作ろうと思わない/思わなかったのかということだ。著者もそうだったわけだし。

 彼らはかなり明確に、ミステリーサークルが「高次存在」からのメッセージを伝える媒体であると位置づけている。
 例えば二重らせんに見えるようなミステリーサークルは「遺伝子操作など神の領域を侵し始めた人類への警鐘」であるとか、大きい円に小さな円がくっついているようなミステリーサークルについて、「精子と卵子の受精を表したと思われる……これは人類の種の保存に対する警鐘」とか、そういう解釈をしたがる。

 つまり、「高次存在」はミステリーサークルを媒体として、人類に語りかけている。

 であるのなら、そのメッセージへの返信もまたミステリーサークルで行うのが自然だろう。しかしどうもビリーバーたちはミステリーサークルが語りかける意味の「解読」には熱心なくせに、せっかくのメッセージを受け取って、それに返事をするということは思いもよらないようだ。(「高次存在」もあんまりレスなしが続くとイヤになっちゃうと思うけどな(^O^))

 しかし彼らはメッセージを受け取ったことそのものに舞い上がり、それが「高次存在」の存在証明だといって喜ぶ。そしてそこで終わる。
 このあたり、宗教じみた「絶対者」とその子羊的な世界観がうかがえるように思うが、そのへんのメンタリティはよくわからない。

 いや純粋に、ミステリーサークルがとても美しいと思っている人たちであり、しかもそれを追っかける行動力もあり、さらにダグ&デイヴによる種明かしも存在するのだから、「いっちょやってみましょか」という人物が愛好家コミュニティの中で存在しても全く不思議じゃなかったはずだ。でもそういう動きがなかったらしいのが不思議だし、ひょっとしたらそういうやつは抹殺されたかっっっ!?みたいな妄想も膨らむ。(^O^)

 もちろんミステリーサークルで「返信」するだけが応答ではないはずだが、であれば、「高次存在」がこれだけ明白に(彼らにとっては「高次存在」の存在は明白であるし、その存在の人類への通信手段がミステリーサークルであることも明白)人類に対して警告を与えてくれているのだから、その警告を「解読」するだけで喜んでいてはいけないはずなんだ。しかし彼らビリーバーたちがそのメッセージを真剣に受け止めて環境運動に身を投じた、なんていうことはあまりないようだ。

 どうしてそこまで存在が明々白々な「高次存在」の警告を無視する? (^^;

 私がもしも「高次存在」で、本当にミステリーサークルを通じて人類に警告を与えているのであればどうだろう。
 ほとんどの奴は真に受けないし、やたら信じる奴らは「解読」はするけどその警告の手段にばかりまとわりついてきて肝心の警告の内容には一向に興味を示さない……。

「うわ、ここにも警告が出現!」「信じない人がいるけど、これはほんとの警告ですっっっ!」「あ、この警告、美しい!!」「今度はこんな警告出して下さい!」

 私なら見捨てる。(^O^)

 著者が疑問を持ってからサークルメーカーにコンタクトを取ってインタビューを実現するまでは結構短いが、これは結局、さほど困難ではなかったのだと思う。いや、コネクションとかを考えればある程度はあるとしても。

 それよりも大きな困難はやはりビリーバーから抜け出ることで、これを突き破りさえすれば、あとは比較的簡単だったのだと思う。

 つまり、ATフィールドは誰もが持っている心の壁だということね。(^O^)

 あるいはこの世で一番固い物質は人間の頭脳であると。(^O^)

 いずれにせよなかなかダイナミックな、読み応えのある本だった。
 品切れみたいだから、縁があれば読んでみるのもいいかも。探して読むほどではないけど。(^O^)

【おまけ】

 著者がイギリスを去るときに「伝説の巨匠」ビリー・ベイリーから贈られたという初心者向けのサークルメーカー入門マニュアル。
 

サークルメーカーへのいざない

by ビリー・ベイリー

〈はじめに〉
 世界中に出現するミステリーサークルは、私たちの時代のきざしを告げる道しるべとなりつつある。サークルを作るのはいたって簡単、あなたにもたやすくできるのだ。サークルを愛するすべての兄弟姉妹に、そのやさしい秘伝をお伝えしよう。

〈道具〉 シンプルでだれにでもすぐ手に入る、次の4つの道具があればOK。

●巻き尺……20mか30mのもの。
●竹竿……長さ約1mの竹が5~8本。先端に白いセロテープを貼ると、夜中でも見やすい。
●スタンピング・ボード……幅20cm・長さ1mの板の両はしに適当な穴をあけ、ロープを通し、両手で持てるくらいのループを作る。
●ペンライト……または、小さめの懐中電灯。

〈準備〉 瞑想してひらめきを待つのもいいが、最初は単純なデザインから始めよう。前もってデザインを紙に描いて、それぞれの寸法を計算し、数字を大きな字で明記しておく。夜の闇で小さな数字は読みづらい。

〈人数〉 慣れれば1人でもサークルを作れるようになるが、最初は同じ興味と秘密と情熱を分かち合える友人2、3人でやるといいだろう。

〈場所〉 小麦、稲、菜の花など、どれでもいいが、話題になりそうな場所を選ぶこと。丘の上からそのサークルを見おろすことができたり、ドライブする車から見えやすい畑などがいい。近くに太古の遺跡があったり、教会や神社などのパワースポットのそばならばさらによい。

〈衣服〉 夜中に畑の中で活動するので、なるべく黒っぽい服装がいい。靴は汚れてもいいものを履く。夜露に濡れたりするので、車の中に着替えや履き替えの靴を置いておくことをお勧めする。

〈現地に着いたら〉 目的の畑や田んぼまでいったん車で行き、スタンピング・ボードや竹竿などをわかりやすい場所に降ろしたら、車を移動して1kmくらい離れたところに駐車する。そのあとこっそりと歩いて目的の畑に戻る。

〈お祈り〉 サークル・メイキングは、いたずらではない。大地の魔法をよみがえらせ、宇宙の不思議を体験する”場”を創造するスピリチュアルな行為だ。これから作り出すミステリーサークルがどういうものであってほしいか、1人ひとり、小さな声で、声に出して祈ろう。

〈サークル・メイキング〉
●円を描く まず中心点を定め、そこに巻き尺の端を持った人が立ち、もう一方の端を持った人が横歩きでアウトライン(線描)を描く。その時、巻き尺を常にピンと張るのが、正確な描くコツである。
●直線を描く サークルの中で直線を描くのは簡単だ。2人で作っている場合、巻き尺の一方を土に挿した竹竿の先にかけ、一方を1人が引っぱる。すると巻き尺で直線が作れるので、そのまっすぐな線に沿って、もう1人が横歩きをすれば、まっすぐなアウトラインが描ける。
●多角形 サークル内に五角形や六角形を作る場合にも、分度器はいっさい使わない。すべて、外周円の弦の長さを測定し、それぞれのポイントに竹竿を挿して正確な幾何学模様を描く。
●塗りつぶし アウトラインを描き終わったら、スタンピング・ボードでプラント(小麦・稲・菜の花)を押し倒していく。この場合、倒された茎が川の流れのように美しくするには、時計回りなら時計回りで、直線なら同じ方向に、倒す方向を統一する。
 大切なのは、立ったまま残す部分の茎をあらかじめ明確に頭の中に入れておき、なるべく折らないように気をつけること。
●完成後 できあがっても、けっして自慢げに言いふらしたりしないこと。

〈おわりに〉
 世界中のあらゆる国々にミステリーサークルが現れることを想像してごらん。
 それぞれの国の伝統や文化にそった神秘的なシンボルやメッセージ。
 お金や出世のことしか考えたことのない人々が、
 宇宙の不思議に心を打たれるシーンを想像してごらん。
 ガイヤの想いを人々に伝えるのは、美しいミステリーサークル。
 この星の愛と平和とハーモニーのために、ワクワクする明日のために ── 。

注意‥あなたが本当にミステリーサークルを作ってみたいと思ったときは、実行に移す前に農場主の許可を得るなどして、違法行為にならないよう十分な準備をしてください。

 

【おまけ2】

 後日、『ミステリーサークル写真集―1999』(中里精一著/アウル企画)を入手したが、実はパンタ笛吹氏はこの写真集の監修もやっている。

 で、彼が書いた序文がこれ。
 

 ミステリーサークル……イギリスの麦畑にできる円形状のマークについての記事を読んだのは,もう十数年前のことだったろうか? 元々疑り深い性格の私は,そんなのは人間のイタズラに決まっている,と決めつけ,大した興味を持たなかった。だから,9年前に2人の老人が「あれは全部,自分達が冗談で作った」と白状したニュースが流れた時,やはりそんなものだったろう,と溜飲を下げたものだった。

 ところが去年(1998年)の7月,ある取材のためイギリスに行った際,偶然に巨大なミステリーサークルに遭遇し,その言語を絶した美しさに瞬時に魅了された。それまでミステリーサークルと言えば単純な円形としか知識のなかった私は,次から次に出現する多種多様,複雑にして斬新な図形の数々に,ただただ圧倒されるばかりであった。

 ミステリーサークルとの情熱的な恋におちた私は,取材スケジュールを急遽変更して,南イギリスにとどまり,2つの国際学会に参加した。延べ5日間にわたるミステリーサークル・シンポジウムでは,世界中から集まった研究家たちが,あらゆる角度からの調査結果を発表した。多くの動かぬ科学的証拠を学んだ後は,もはやこの現象が人間の手によるものではない,との100%の確信を持つに至った。そうした私のミステリーサークル体験については,拙著「ミステリーサークル2000」(たま出版)に詳しく書いたので,参考願いたい。

 今年(1999年)7月末,私が案内役を務めるミステリーサークル・ツアーが企画され,それに参加されたのが本書の写真を撮られた中里精一氏だ。私たち一行十数名は実際にミステリーサークルにわけ入り,またヘリコブタ一に乗り込んで空からも観察し,さまざまな体験を共有した。氏の旺盛な探求心と確かなカメラ・ワークが,本物のミステリーサークルの持つ特殊なエネルギーまでをも,この写真集に再現せしめたものと信じる。また,時期的,地理的に我々のツアーでは見ることのできなかった今年(7月以前)のミステリーサークルについては,イギリス現地のミステリーサークル専門の写真家,ステイーヴ・アレクサンダー氏による作品が後半に掲載されている。氏の長年に渡る熱心な撮影活動にも心からの敬意を表するものである。

 残念ながら現在の日本社会では,未だにミステリーサークルを愉快犯の仕業として一笑に付す傾向にあるようだ。この写真集が,ミステリーサークルの真実を伝える大きな一歩になれば嬉しい。

1999年に現われたミステリーサークルの合計は143個である。私たちは人類史上初めて,目に見えない何かから,これほど素晴らしい贈り物を受け取っているのだ。少なくとも,贈られたプレゼントを,心を開いて味わうのが,人間側からの礼儀ではなかろうか。

1999年9月29日 パンタ笛吹

 
 読んでるこっちが赤面しちゃうね。(^O^)

 やっぱりダグ&ダイヴは黙殺してる。

 それに「少なくとも,贈られたプレゼントを,心を開いて味わうのが,人間側からの礼儀ではなかろうか」ってのも、うん。これが警告なんだったら、果たすべき「礼儀」はそういう反応じゃなかろうよ。(^O^)

 印象論に過ぎないかもしれないが、「もともと疑り深い性格」といったフレーズは「でも信じちゃった」という言葉の強調表現として使われることがあまりに多いので、とりあえずこのフレーズを使う人は正反対のことをやってるのだと受け取るべきだと思ってる。

突然食いたくなったものリスト:

  • 豚しゃぶ

本日のBGM:
Hanger 18 /MEGADETH




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