化学調味料関係のとりあえずのメモ(その3)

 うま味や、化学調味料についてのメモ。
 まだ続く。

 今回はたまたま、以前「ニセ科学フォーラム2009」で講演された藤田一郎先生の『脳ブームの迷信』を読んでいて、味の素に関するデマについて出てきたので、ちょうどいいと(^O^)、これを含めて前倒しでこちらを。

 まず(その1)の記述への補足を。
 

うま味の閾値(いきち)
閾値とは特定の味を感じさせるための最少の濃度のこと。鹹味・酸味・甘味・苦味・うま味の5基本味の代表的な物質の閾値は、鹹味(食塩)0.2%、酸味(酢酸)0.0012%、甘味(ショ糖0.5%)、苦味(キニーネ0.00005%)、うま味(L-グルタミン酸ナトリウム0.03%)となっており、5基本味ではうま味は3番目に閾値が低い(高い)ということになる。
・グルタミン酸ナトリウム(MSG)の閾値は0.03%、イノシン酸ナトリウム(IMP)の閾値は0.025%で、ほぼ等しい。ところがMSGが濃度を増すことによる味の強さ(呈味力)の増し方が大きいのに比べ、IMPの増加は小さい。
しかしIMPは、MSGとの共存下では強い呈味力を発揮する。

 
 と書いたが、『うま味の文化・UMAMIの科学』(山口静子監修)に収録されている実験では鹹味(食塩)0.0086%、酸味(酒石酸)0.00092%、甘味(ショ糖)0.16%、苦味(硫酸キニーネ)0.0001%、うま味(L-グルタミン酸ナトリウム)0.015%と、かなり数字が違うものの(サンプル物質が違うものもある)、基本味の閾値の順位は変わらない。いずれにせようま味は3番目。ところがこれがうま味の相乗効果、つまりグルタミン酸ナトリウムがイノシン酸ナトリウムと一緒になると、グルタミン酸ナトリウムの閾値は0.015%から0.00014%へと一気に1/100にまで引き下げられ、人間が一番敏感な苦味と匹敵するか、あるいはそれ以上に敏感に感じることができるようになる(IMPの濃度を上げれば更に下がる)という。

  • 味の素の原料はヘビ
    大正の中頃、こんなデマが流れた。マクドナルドの食用ミミズやネコ肉のようなもんか。
    この頃は既に味の素の味はよく知られるようになっていた。さらにグルタミン酸ナトリウムの製造法の特許はまだ切れておらず、鈴木商店(味の素KKの当時の社名)のみが製造していた。だからこそそういうデマも流れたのだろう。
    このデマの大元は、伊勢のたくあん漬けがおいしいのは、樽の底にヘビを清け込むためという言い伝えがあり、味の素の良い味はヘビでも使っているのだろう、と憶測されたのだとか。実際のところはこの時代はグルタミン酸ナトリウムの製造方法は加水分解法の時代で、原料は小麦だった。
    このデマがマクドナルドのそれと違うのは、これを広めたのが新聞だったこと。京都の新聞が、
    「近江の伊吹山へ行くとヘビを捕らえて売ることを生業とするヘビ捕りが大勢いるが,それはみな味の素の原料にするため,同工場へ送るものだ」
    という内容の記事を書いたそうだ。さらに宮武外骨が著書『一癖随筆』(1922[大正11]年4月)の中で、
    「味の素の原料は,豆や麦ばかりでなく,青大将をも使っている…….味の素本舗では全国からヘビを集めています」
    と書いたのだそうだ。このせいで鈴木商店にはヘビの買い取り価格の問い合わせが来たりしたという。(^O^)
    これを受けて鈴木商店は1922[大正11]年8月、
    「誓って天下に声明す。味の素は断じてヘビを原料とせず」
    という社長声明書を広告したという。またこの頃から鈴木商店は新聞広告面に「原料は小麦」または「原料は小麦タンパク質」と書き添えるようになったのだとか。

  • 味の素を食べると頭がよくなる
    これまで何度か引用したが、以下が味の素KKのWebサイトでの公式見解。(^O^)

    Q 「味の素®」を食べると頭がよくなると聞きましたが、本当ですか?

    A そのようなことはありません。

    素敵な即答だ。(^O^)  最近では『美味しんぼ』の啓蒙(^O^)(^O^)のお陰か、こういう話はとんと聞くことはないが、ある時期、本当にこういうデマが出回っていたのだ。これは世代間ギャップが大きいようだが、知らない人はパパゴン、ママゴンに聞いてみるといいよ。
    ところでこのデマについては面白い話があった。このデマの原因?について、2つの話が見つかった。どちらかがウソなのかもしれないが、おそらくはそのどちらも本当なんじゃないかな。片方から言われるようになって、もう片方がしの信憑性?を上げるように持ち出されたという……。
    まず1つ。
    これが『脳ブームの迷信』(藤田一郎著)に載っていた話。「脳とサプリメント」という章に出てくる。ここではこのデマについて、「今から40年以上前に流行した迷信」としている。藤田氏の見立てでは、このデマの出所は林髞(はやしたかし)であるという。この人物はミステリファンには探偵小説作家・木々高太郎として知られている大脳生理学者。「木々高太郎」のペンネームは本名の「林髞」を分解したものだと聞いたことがある。彼は1954年の研究論文でイヌ、サル、ヒトの大脳皮質にグルタミン酸を注入するとけいれんが起きることを報告した。「データは極めて不十分でしたが、彼はグルタミン酸が神経細胞に直接的な興奮性作用を持つことを提唱した」のだという。
    何のこっちゃと思うが、一応藤田氏による説明を引用しておくと、

     神経細胞がその細胞体から軸索突起の端へ信号を送る際に、電気パルスを利用していることはすでに述べました。ところが、神経細胞から別の神経細胞へ信号の伝達が行われるシナプスでは、電気パルスではなく、軸索突起の末端から放出される神経伝達物質と呼ばれるものが信号の伝達を担っています。信号を受ける側の神経細胞は、タンパク質でできた受容体で放出された神経伝達物質を受け止めて、電気反応を起こすのです。このとき前の細胞が活動すると次の細胞も活動が強まるような情報伝達のあり方を興奮性と言います。その伝達物質として一番代表的なものがグルタミン酸なのです。

    神経細胞の構造

    だそうだ。この物質がグルタミン酸であることはまだわかっていなかった。
    林髞による報告は、1980年代に竹内昭によってグルタミン酸が興奮性伝達物質だと確定されるきっかけの1つとなったという。ところが林髞はこれ以後、暴走を始める。林は『頭のよくなる本 大脳生理学的管理法』(1960年/光文社)を含め、多くの脳関連の啓蒙本を書いている。確かに「Wikipedia – 木々高太郎」にある林髞名義の著作をざっと見ても、『頭のよくなる本』以降、『頭をつかう人の食事』、『勉強が好きになる本 大脳生理学の教える学習倍増法』、『頭の良い子に育てる本』、『四時間眠ればよい あなたも 朝型・夜型・不眠型』あたりの題名は、ちょっと興味を惹かれる題名ではある。(^O^) 藤田氏は林を「脳本ブームの祖と言ってもいい人」だといっている。
    で、林は本で、グルタミン酸を摂りましょうと主張した。『頭のよくなる本』で林は、
    「プラス物質とマイナス物質の量が多いということは頭がよいという条件です」
    「(プラス物質とマイナス物質の)総母体ともいうべき酸が、グルタミン酸であることは、すでに述べた通りです。ではグルタミン酸を食べることはよいことでしょうか。もちろんのことで、脳髄はそれをあるやり方で取り入れて、機能代謝の材料にします」
    と述べている。ここで言うプラス物質、マイナス物質とは興奮性伝達物質と抑制性伝達物質のこと。「それらは多ければ多いほど頭が良くなり、それらの材料となるグルタミン酸を食べることは脳にとって良いことであると結論」しているという。
    ただ、藤田氏に言わせるとこれは、

     ネットワーク構造を無視して、脳を高いグルタミン酸濃度に浸すことで働きが良くなるという理屈は成り立ちません。たとえるなら、車がガソリンで走るからといって、運転席やボンネットの中をガソリンで満たしても、車は走らないというような話です。
     しかし、林髞はグルタミン酸を神経伝達物質としてではなく、まさに燃料のようなものとして考えていたようです。……

    という。そしてさらに藤田氏は、「私の知る限り、「『味の素』を食べると頭が良くなる」という宣伝を発売元が行ったことはなく、この迷信の発信源は林髞だろう」と結論づけている。
    このデマについて、もう1つ。
    このデマに信憑性を与えた?のが、鈴木商店の2代目社長、鈴木忠治(1875‐1950/初代社長鈴木三郎助の弟/1931[昭和6]年三郎助の死去に伴い鈴木商店社長に就任)の子供たちの出来の良さだったらしい。
    鈴木忠治の子供たち(8男1女)は、長男の三千代が東京商大(現・一橋大)だった以外はみんな東大に行ったという。この事実もこのデマの中で大きな役割を果たしたのだと思う。
    なお、ググったところ、2ちゃんねるに鈴木忠治の子供たちについてこんな書き込みがあった。

    長男三千代東京商大卒(現一橋大学)元三楽オーシャン会長
    次男松雄東大工学部卒、元東工大教授、多摩電気社長、相談役
    三男竹雄東大法学部卒、元東大教授、元法学部長、商法の権威
    四男義雄東大法学部卒、商工省鉱山局課長、軍需省軽金属課長
               貿易庁輸出局課長、通産省重工業局長
               日本輸出入銀行理事、元日揮社長
    五男治雄東大法学部卒、野村証券、元昭和電工社長、会長
    六男正雄東大卒学部不明、元三菱重工副社長、元三菱自販社長
    七男秀雄東大法学部卒、大蔵省、在NY領事、財務調査官、
               国際金融局長、世界銀行IMF理事、
               大蔵省顧問、野村證券顧問を歴任
    八男泰男東大経済学部卒、次男と多摩電気工業を設立、社長を歴任
    長女千栄子は竹内徳治と結婚、竹内は内務省管理局長、香川県知事を歴任

    壮観だなあ。
    #あるいは『頭のよくなる本』にこのことが書かれているのかもしれない。現物を持っていないので何とも言えない。私はこれらの話を別々に知ったので、勝手に別々のソースだと思っているだけかも。
    ##ちなみにそもそもグルタミン酸を経口摂取しても、「血液脳関門」というチェック機構に阻まれて神経細胞までほとんど届かないのだそうだ。このあたり、ヒアルロン酸だとかコラーゲンと似てるね。

突然食いたくなったものリスト:

  • 焼肉

本日のBGM:
Soldier /ANTHEM






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