ここ数回、統計の話を出しているのでもう1つ。
前々回の玉子、前回のソースはいずれも家庭へのお好み焼きの普及にも大いに関係する話だと思うけども、今回はもう1つ、家庭のお好み焼きに関係するデータ。
今回はホットプレート。
「『神戸とお好み焼き』(三宅正弘)」というエントリにはこんなことを書いた。
他に興味深かった記述は、ホットプレート普及以前の家庭用の鉄板の話。 これはコラムとして書かれている文章の中にある。 「ホットプレートがない時代、各家庭が知り合いの鉄工所であつらえてもらっていた」という。「兵庫県内でも、神戸や尼崎にはこうした鉄板をもつ家庭が多い。鉄鋼の街の一面がここにある」。 なるほどなあ、という話。 |
さらに、これも当ブログで紹介したことのある『焼肉の文化史』という本(「積ん読解消運動(5)『焼肉の文化史』『焼肉の誕生』佐々木道雄」で紹介)には、こんなことが書かれている。
“焼肉のタレ”の流行の原因 戦後大きく変化したものの一つに台所と台所用品がある。1960年頃になると、飯炊きは薪を焚く竃(かまど)の鉄釜から電気釜になり、副食の調理は炭火の七輪からガスレンジに変わった。 これに伴って家庭の焼肉は、直火焼きからフライパン焼きに変化した。次いで、電気冷蔵庫が家庭に普及して、生肉などの生鮮食料品の貯蔵が可能になった。焼肉のタレ流行の背景はこうして整ったのである。 野村進の『コリアン世界の旅』(講談社、1996年)は、焼肉のタレの販売を最初に手掛けたエバラ食品の社長の談話を次のように伝えている。 「肉とタレとフライパンさえあれば、パートから帰ってきた主婦でも子供でも、すぐに夕食の支度ができるようになったんです。もう一つ、実はホットプレートの普及が大きかった」 台所が大きく変化する中で、肉の消費量が増加した。そうした中で手軽に肉料理ができる焼肉のタレが開発され、新しい社会に受け入れられた。つまるところ焼肉のタレは、”焼肉”をヒントにして日本で発明された、新しい料理文化と言えるのである。 |
焼肉(と焼肉のタレ)の普及にホットプレートの普及が大きく影響していたというのはよくわかる話。
まあ、この話の中に家庭用のガスクッキングテーブル(テーブル埋込型ガスコンロ)が出てこないのはちょっと片手落ちのような気もするけれど。
こういう↓やつが、昔はそれなりの数出回ってたよね。
東京ガスのウェブサイトより
テーブルにガスコンロが埋め込まれており、ここで鍋をやったり、あるいは鉄板を置いてお好み焼きやたこ焼き、焼肉なんかもやったもんだ。コンロを使わない時はイラストのように板でフタをして、普通にテーブルとして使うことができた。
キッチン・バス工業会の資料によると、ガスクッキングテーブルが登場したのは1964(昭和39)年のことだそうだ。
こういうテーブルは業務用では今でも普通にお好み焼き屋などで使われているが、家庭用としては既に生産されていない。各ガス会社は経年劣化で事故の可能性があるとして、ガスコンロとしての使用をやめるように呼びかけている。
・大阪ガス
・東京ガス
・東邦ガス
・日本ガス石油機器工業会
わ、ググったら当時のガスクッキングテーブルのカタログの写真を上げてる人がいた! (^O^)
・ガスクッキングテーブル(kimama cafe & relaxation ~福井県坂井市にある整体カフェのブログです。~)
いいねえ。
他にもいろいろ出てくる。1973(昭和48)年のテレビCMなんて上げてる人がいた。
ここにナショナル(現パナソニック)のコタツ用ガスクッギングテーブルのCMが出てくる。
この時期家庭用のVTRはまだないし、アップ主はいったいどんな機械で録画したんだろう? すげえなあ。
ガスクッキングテーブルの普及度というのは興味のあるところで、これは改めて調べてみたいと思う。
で、ガスクッギングテーブルはガスクッギングテーブルで便利だったけど、やっぱりガス管を取り回すのは面倒(&引っかけると危ない)で、カセットコンロとホットプレートが普及して駆逐されたんだろう。
ちなみにカセットコンロは1969(昭和44)年に岩谷産業が発売したのが初めだそうだ。意外に早い。ただ、規格が制定されたのが1991(平成3)年のことらしい(その後1998年に形状統一)。
実感としてもカセットコンロの普及は90年代以降のような気がする。
……いずれにせよホットプレートの普及は、恐らくお好み焼きの普及にも貢献したのだと思う(ということは、家庭用「とんかつソース」の普及にも)。
というわけで今回は、お好み焼き関連としてホットプレートについてちょいと調べてみようと(といってもググるだけだけど(^^; )。
ググってみたが、ホットプレートを初めて発売したメーカーやその時期はわからなかった。
焼肉のタレのモランボンのサイトには
焼肉が家庭のメニューとして一般化されたのはホットプレートの発売によるものといわれています。1970年代に登場し、1977年頃には急激に普及していきました。 |
とある。
また、
・耐久財の変容(インデックス調査でみる50年)(中央調査社)
にはグラフ付きでこう書かれている。
70年代における二度の石油ショックとインフレを経て80年代には成長率が低下、消費の成熟化、高度化の時代に入った。基礎的耐久財もほぼいきわたり高機能、新機能商品の登場と普及が焦点になっていった。典型的なのはVTRで、79年の保有率1.8%が89年には73.0%まで上昇、92年に8割を超えている。ホットプレート、電子レンジの新型電気調理器具とエアコンもこの時期に70%前後の普及水準に達した。電気ストーブと洗面化粧台は、約半数の家庭が保有するようになり、電気カーペットと電気コーヒーメーカーは40%前後の普及率となった。伸び率ではVTRがとびぬけて高く、ホットプレートと電子レンジ、電気カーペットがこれに次いでいる。
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ホットプレートの保有率は80年代に30%から70%に上昇したと。
その後のデータは「台所・厨房機器の保有率の推移」(中央調査社)というページに書かれている。
●トースター、ホットプレート、ジューサー・ ミキサー(図4) トースターは、1971年の時点では、65%と2人以上世帯の3分の2の世帯が保有していた。 1990年までは普及が進み90%に達したが、以降はやや減少に転じ、2005年では81%の保有となっている。 ホットプレートは、1979年から調査を開始し、1980年では30%の保有率となっている。 1990年に72%、1994年に79%となり、1994年~2005年は80%前後の保有となっている。 ジューサー・ミキサーは、1971年の保有率は31%で、1970年代~1980年代は保有率が伸張して、1990年に65%に達したが、その後は、60%台の保有率で、横ばい状態が続き、 2005年では、68%の保有率となっている。 |
あ、このグラフがあれば前のは要らなかった……? むー。
いずれにせよホットプレートは90年代半ばには保有率80%くらいになり、そこからだいたい横ばいということのようだ。
他の調査ではどうだろう。
最近のアンケートでもだいたい似たような数字が出てきている。
ノーリツが2006年に行なった調査「調理器具に関する調査(pdf)」では、ホットプレートの保有率は79.4%。
(2006年3~4月にかけて、調査対象はノーリツサイト つかりコムねん 「MY コムねん」会員の、全国の40代以上の女性。ノーリツのユーザーを対象にしたアンケートなので一般とは少し違う結果かもしれないという注がある)
2010年3月に株式会社ドゥ・ハウスが行なった調査「「調理器具」に関するアンケート(pdf)」によると、ホットプレートの保有率は78.4%。
この調査は「「myアンケート」を活用し、電子メール及びWEBアンケートによる調査」で、調査対象は日本全国の20~50代の女性。
ちなみに既婚子供同居家庭では88.6%、既婚子供非同居家庭では70.9%となっている。
このあたりは保有率が80%前後で他の調査とも数字として合致するが、同じ年(2010年)6月にYahoo!リサーチが「1都3県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)在住の、20~39歳の女性800人(有職者400人、無職者400人。未婚者は、親等と同居の場合は対象外)」を対象とした調査では、ちょっと違う数字が出ている。
この調査ではホットプレートの保有率は、「有職・未婚」女性で24.8%、「有職・既婚」女性で55.8%、「専業主婦」で59.9%となっている。
たいていの調査では2人以上の世帯が対象となっているので、「有職・未婚」女性の数字はなかなか調査に反映されないということもあると思う。
次は2013年。
象印が首都圏と近畿圏の20~60代の既婚男女を対象に行なった「キッチン家電の購入に関する調査」では「ホットプレート・グリルなべ」の保有率は77.1%となっている。内訳としては首都圏で71.8%、近畿圏で82.6%と、近畿圏が首都圏に10%以上の差をつけて保有率が高い。
またこの調査ではどのくらいその家電を使ってるかも調べている。「ホットプレート・グリルなべ、ジューサー・ミキサー、電子レンジ(オーブンレンジ)、冷蔵庫、卓上IH調理器、電気ポット、コーヒーメーカー、炊飯器、ホームベーカリー、オーブントースター、電気ケトル」の中で、「ホットプレート・グリルなべ」が一番長く使われている。平均7.2年で、10年以上使っているのが23.5%。長持ちする家電なんだよね。
ちなみに私の家のホットプレートはもう30年以上使っている。(^O^)
というわけで、ホットプレートは80年代初頭に30%だったのが90年代初めに70%、90年代半ばには80%ほどの保有率になり、現在もだいたい8割をキープしている。首都圏よりは近畿圏、独身より既婚家庭の方が保有率は高いと。
お好み焼きの家庭への普及との関係はこれだけではわからないけど、今後参考にすることもあるだろうと思う。
ちなみに「大阪の名物」としてのお好み焼きのイメージは、昭和30年代に「ぼてぢゅう」などの大阪発のお好み焼きチェーンがそういうキャッチフレーズで広めていったことが大きい。
つまり「名物が広まった」のではなく、「名物として広まった」のだと。
突然食いたくなったものリスト:
- ジャワカレー
本日のBGM:
御意見無用 /OUTRAGE
MOPSのカバー。OUTRAGEはメジャー1stアルバムでFLOWER TRAVELLIN’BANDの「Slowly Bus Surely」もカバーしてて、これもいい。原曲となったモップスの「御意見無用~いいじゃないか~」は日本語版と英語版があって、OUTRAGEは英語版をカバーしている。しかし実はモップスのこの曲は、日本語版こそカッコいい。鈴木ヒロミツのこの曲でのヴォーカルは、日本ロックの中でも最高峰のロックヴォーカルだと思っている。
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