こんなブログエントリを見つけた。
味の素の原料は石油からサトウキビに変わったけれど… – 食品添加物の危険性.com
http://tenka99.com/kiken/cat15/cat16/2_1.html
書いてる人はその筋(^O^)ではそれなりに有名な人らしい。どういう評価かは別として。(^^;
このエントリでウチからの画像が流用されてる。
流用そのものは別に構わない。私もやるので。
ただ、そこに書かれている話があんまりなので、それだけは指摘しておく。
こういうことを書いているサイトは山ほどあって、ことさらにここを採り上げる理由はないんだけど、これは私のところの画像を使ったという「縁」みたいなもんでね。まあ使用料みたいなものとしてまな板に上ってもらおうと。
グルタミン酸ナトリウム(味の素の原料)は石油からサトウキビに変わったけれど、昆布でお出汁をとったようなあのコクのある味が出ることはありません。
グルタミン酸ナトリウム(MSG)は、 ・だしの素、漬物、インスタントラーメン などほとんどの加工食品・調味料に非常に広く使用されています。 |
いきなり文脈として意味がわからんねえ。「グルタミン酸ナトリウム(味の素の原料)は石油からサトウキビに変わったけれど、昆布でお出汁をとったようなあのコクのある味が出ることはありません」ってなあ。サトウキビに変わったらコクが出るはずだとか思ってたってことかな。
MSGでは昆布のダシは再現できないというのは「化学調味料関係のとりあえずのメモ(その1)」で書いたとおりだけども、再現できないのが「コク」なのか「風味」なのかそれ以外なのか、ちゃんと考えてるのかな。「同じ味にならない」というだけの意味で使っているなら、わかりきった当たり前のことをことさら言い募ってるだけってことになるが。
昆布や鰹節、しいたけに含まれる「うまみ成分」はMSGですが、
しかし天然のものとはいえ、グルタミン酸ナトリウム(MSG)を大量に摂取すると身体に異変が起こり、顔がしびれたりひどいときは呼吸困難になったり…… |
おいおいおいおい。
後段は後回しとして、いきなりひどいぞ。
昆布や鰹節、しいたけに含まれる「うまみ成分」はMSGですが、 |
なんだこれ?
これらに含まれるうま味成分はそれぞれ違う。
昆布のうま味はグルタミン酸。
シイタケのうま味はグアニル酸。
鰹節はイノシン酸。
これを一緒くたに「MSG」とは絶対に言えない。「MSG」はグルタミン酸ナトリウムのことだからね。
うま味には大きく2系統があることがわかっている。アミノ酸系と核酸系。
グルタミン酸はアミノ酸系、グアニル酸とイノシン酸は核酸系のうま味成分だ。どうやら筆者はこの2つの区別すら知らないらしい。
昆布、シイタケ、鰹節のうま味成分はうま味について調べれば最初期に出てくる話で、こんな基礎的な知識もなくえらそうに語っているのかと思うとびっくりする。
※グアニル酸の呈味はイノシン酸と同質で、味の強さが異なるだけ。
※※アミノ酸系のうま味と核酸系のうま味は単独でもうま味が出るけれど、両者を合わせることで格段にうま味を増すことができる(「うま味の相乗効果」)。だから昆布だしと鰹節を足すことはうま味を引き出すのに非常に効果がある。市販の化学調味料=うま味調味料もほとんどはMSGなどの単独ではなくアミノ酸系と核酸系を混合した形で売られている。例えば「味の素」はアミノ酸系:核酸系が97.5:2.5で混合されているし、同じ味の素KKの「ハイミー」や武田薬品⇒キリン協和フーズの「いの一番」は92:8という混合率になっている。
また「昆布……に含まれる「うまみ成分」はMSG」という部分も、実はおかしい。
昆布に含まれるうま味はグルタミン酸ではあるが、グルタミン酸ナトリウム(MSG)ではない。
グルタミン酸ナトリウム(MSG)はグルタミン酸を結晶として引っ張り出すための形であって、昆布だしを昆布だしとして味わうだけで分離しないのならば別にナトリウムにくっつける必要なんかない。(ちなみにこれまで昆布がMSG生産の材料になったことはない)
だから「昆布のうまみ成分」はグルタミン酸だというのは正しいが、グルタミン酸ナトリウム(MSG)だというのは間違い。
たったこれだけの短い文章の中に、これだけたくさんの事実誤認がある。
特にアミノ酸系と核酸系もゴチャマゼにしてしかもうま味を全部「MSG」だと言っちゃうところには、あまりの知識不足とそれを平気で垂れ流せる傲慢さと思い込みの激しさが見て取れる。多分「MSG」って何なのか全く知らず(あるいは知らないふりをして)に書いてるね。
で、続き。
昆布や鰹節、しいたけに含まれる「うまみ成分」はMSGですが、
しかし天然のものとはいえ、グルタミン酸ナトリウム(MSG)を大量に摂取すると身体に異変が起こり、顔がしびれたりひどいときは呼吸困難になったりします。 1,960年代に中華料理を食べた少数のアメリカ人が食後に炎症を覚え、 ・眠気、顔面の紅潮、掻痒感 などの症状が見られたことから、中華料理は特にMSGを大量に使うので中華料理を食べつづけるとなりやすいということで、中華料理店症候群(CRS)と名付けられたことがあります。 |
この文章、正しいのは最後の1文の中の「ことがあります」という過去形の記述だけで、今どき中華料理店症候群(Chinese Restaurant Syndrome)なんてのを注釈なしで持ち出すのは知識のアップデートがないのか他人を騙す意図があるのかのどちらかだろう。
「名付けられたことがあります」という記述で終わることで読者に何らかの印象を与えようという意図があからさまで、これもあざといやり方だ。
化学調味料の話になると必ず引き合いに出される中華料理店症候群の話と、「生まれたばかりのマウスに大量のグルタミン酸を注射すると、脳の視床下部の一部の神経が細胞死する」という話のその後の展開は「化学調味料関係のとりあえずのメモ(その4)」に書いた。
さらに別の資料も挙げておく。
「天然のものとはいえ、……大量に摂取すると」などというのなら、この数字はどう見るのか。
中野茂『アミノ酸発酵技術の系統化調査』より
これは各種アミノ酸と一般の食品ののLD50値を表にしたもの。「LD50値(Lethal Dose 50)」とは投与された実験動物の50%が致死する被検物の投与量。つまり急性毒性について調べたもの。これだけ食わせたら半分のマウスが死んじゃうよってことね。表の上にあるものほど、少ない量で死んでしまう。赤○で囲んだのがグルタミン酸。これは他の食品に比べてむしろ安全性が高いといえる結果になっている。
またMSGについては亜急性毒性試験(ラットを使用、1~3ヶ月連続投与して、体重や内臓諸器官の変化や病理組織学的な検査などを行う試験)、さらにマウス、ラット、イヌを用いた2年間の慢性毒性試験、発ガン性試験が行われ、いずれもコントロールと比較して、全く変化が見られないことが証明されている(太田静行『うま味調味料の知識』)。
結局、「こわいこわい」と思い続けたい人が、知識のアップデートは陰謀に引っかかるようなものだといって耳を塞いでいるわけだなあ。
世の中、自分をだまして儲けようとしている悪人ばかりだと思ってるんだろうな。
※しかし初めて見たよ、「1,960年」なんて表記の仕方。(^O^)
天然のうまみは、グルタミン酸ナトリウム(MSG)単体だけではなくて、その他にも色々な成分が含まれていると考えられます。
カップラーメンなどを食べると判りますが、味の刺激が強過ぎて、どうにも私の口にはあわないようです。 |
結局好みの問題かよ。┐(´~`)┌
いやそれはそれとして、「味の刺激」というなら、それはきっとうま味よりも塩分の方だよ。
以下、食品のカラクリ(p198~) 別冊宝島編集部編”今や一大ジャンルに成長した「アミノ酸」をめぐるホントの話”より化学調味料のイメージ払拭に躍起となった逸話などをご紹介します。
化学調味料のことを「うまみ調味料」と言ってくれ、化学調味料業界では、一時、躍起になっていました。 そのため、テレビ、新聞社、雑誌社は無論こと、辞書や教科書をつくる出版社までに出向いて、頼み込んでいたことがあります。 言い分は、 「化学調味料は合成されたものではなく、菌の力で発酵させたものなので、化学という言葉は適切ではない。 というようなものでした。 グルタミン酸ナトリウムは、かつては石油から合成法で製造されていました。 現在ではサトウキビを使った(廃糖蜜)を使った発酵法が主流となっています。 |
さて、これも卑怯な言い方だろうと思う。
結局、この文章では、
「元々石油から作っていた『化学』調味料だったくせに、そのイメージを払拭するために悪あがきしている」
くらいの印象を抱かせようとしているんじゃないのか。
グルタミン酸ナトリウムは、かつては石油から合成法で製造されていました。 |
というのは、確かに事実だ。その意味で間違ってはいない。
しかしだからこそこの書き方には明らかな悪意(あるいは無知)が感じられる。
まるでMSGは生産当初からずっと石油から作られていて、それゆえに「化学調味料」と言われてきたのだ、それを変えた今、その事実を隠そうと躍起になっている……という話をしているかのように見える。
しかしそれは事実ではない。
1909年に世界で最初に商品化されたグルタミン酸ナトリウム「味の素」発売から、一昨年(2009年)でちょうど100年を迎えた。
その100年のMSGの産業生産の歴史の中で、「石油から合成法で製造」されていたという時期はいつ頃で、そしてそれはどのくらいの量だったか、この人は知っているのだろうか。
この業界のガリバーである味の素KK(製品としての「味の素」と区別するために会社を指す時はこう書くことが多い。このエントリでは以前の社名の時代の話であってもこう書く)の歴史でいえば、グルタミン酸ナトリウムの生産には大きく3つの方法が用いられてきた。
最初に用いられたのは池田菊苗博士が特許を取ったタンパク質分解法(加水分解法)。この方法ではタンパク質からグルタミン酸ナトリウムを得る。具体的な原料は小麦、脱脂大豆だった(石油じゃないよ)。
タンパク質分解法では多くの副産物ができる。小麦デンプンやアミノ酸液。当時はこの副産物にも用途があった。小麦デンプンは紡績業で糊材として、アミノ酸液は醤油の原料として使われた(つまりもしこのやり方をもって「化学調味料」と言うなら、醤油ももちろん「化学調味料」だということになる)。この方法は日本特有の需要に支えられていたわけだ。だからこのやり方には海外では生産が難しいというデメリットがあった。海外にはそんな需要はないから。
国内でもこの方法はデメリットが大きくなってくる。紡績業が合成繊維中心になり、糊も合成糊材が使われるようになった。しょうゆの消費も頭打ちになる。新たな方法が必要とされた。
そこで出てきたのが2つの方法。
1つは昭和31年(1956年)に協和発酵が始めた発酵法。協和発酵はそれまでMSGは製造していなかった。味の素KKをはじめ従来のMSGメーカーにとって微生物の働きを利用してMSGを生産することなど思いもよらなかったことで、これはまさに新参者ゆえの新しい発想だった。発酵法はこれまでの悩みであった大量の副産物から解放されたという意味で画期的な方法だった。発酵法は協和発酵に次いで味の素KKなど他のメーカーも相次いで採用し、現在でもMSG生産の主流になっている。発酵法の原料になっているのが、今でもよく宣伝されているサトウキビ(の絞りカス)。
ただ、発酵法には1つの不安があった。それは原料調達。業界最大手の味の素KKは戦中には原料調達の困難さからMSG生産から撤退、社名を変更した経験を持つ。戦後は外貨稼ぎのために政府が小麦粉を割り当てたこともあった(アメリカに輸出された)。
戦争がなくてもやはり原料が農産物である限り供給の不安定さは拭えない。そこでもう1つ採用されたのが合成法という方法。この主原料になるのが石油化学製品であるアクリロニトリル(やっと出てきたねえ)。
味の素KKはこの2つの方法(発酵法・合成法)をほぼ同時期に採用している。発酵法は多くの企業で採用され現在も主流になっているが、合成法を実用化したのは味の素KKのみ。
……ということはつまり、石油化学製品を原料とする合成法を採用した味の素KKでさえ合成法1本ではなく農作物を原料とする発酵法と2本立てだったということ。世の中の全てのMSGの生産が合成法で行われていた時期などないのだ。
そして味の素KKも、11年で合成法から撤退する。
その理由はさまざまなものが挙げられている。曰く海外生産が進んでおり国内生産の需要は伸び悩むという見込み、生産から11年経過したため施設の更新コストの増大、四日市(合成法を行っていた工場がある)の公害問題のため新増設は現有設備の放棄と引き換えでなくては認可されない……そして合成法のイメージの悪さ(「コンシューマリズムの動向や、グルタミン酸に対する一部の消費者の理屈ぬきの感覚による好みに合致しないという事実」)による。もちろん合成法だろうと発酵法だろうとMSGとして同じものが出てくるのだから、原料がどうあれ安全性も味も同じなのだけれど。
コスト面・原料調達面でのリスクヘッジのために合成法も実用化しておくべきだと考えて1つの工場でやってみた……けども石油から作るというイメージは想定以上に悪く、かなり評判を落としてしまった。合成法での生産開始から11年、工場設備を更新する時期に来てるけどそれをする価値があるだろうか? 海外生産も進んでこれから輸出も減るだろうし国内工場はそれほど増えないだろう。となると、このイメージの悪さを突っ切ってまでやる必要あるか? ……みたいなことなんだろうなあ。ちなみに発酵法が主流の現在、原材料の価格が製品価格にモロに反映するので国内にMSG工場はほとんどなくなった。
ともあれ石油化学製品を原料とするMSGはわずか11年間で姿を消した。味の素KKがやめたということは、日本中で石油化学製品を原料とするMSGはなくなったことになる。
ではその11年間、それぞれの方式での生産量はどのくらいだったのだろう。
合成法での生産が行われていた時代の生産方式別生産量
※味の素KKの社史にあるデータを私(hietaro)がグラフ化
年度別でいうと、合成法による生産量は1972(昭和47)年度に全体の23%となったのが最大(13,000t)。11年間のトータルで見ると全体の18%(93,000t)が合成法で生産された。
……さて、話を戻そう。
グルタミン酸ナトリウムは、かつては石油から合成法で製造されていました。 |
確かに、そうだ。
しかしその「かつて」とは、1909年からの100年のうち1962~1972年の11年間であり、その生産量は味の素KKという一企業がその期間中に製造したMSGの18%に過ぎない(業界全体の生産量のだいたい15%くらい)。
※この1文、わかりやすいように少し表現を変えました。
※歴史上、合成法によって作られたMSGは11年間で9万3千トンということになる。ちなみに2005年に世界中で生産されたMSGは推定170万トン。
グルタミン酸ナトリウムは、かつては石油から合成法で製造されていました。
現在ではサトウキビを使った(廃糖蜜)を使った発酵法が主流となっています。 一見、化学的に合成されたものではないと錯覚しそうですが、サトウキビにはグルタミン酸が含まれていません。 だから、米を発酵させて作る清酒や麦から作るビールとは訳が違うのです。 糖分をとったあとの廃糖蜜を、グルタミン酸を生成するグルタミン酸菌という菌にえさ(炭素源)として与えます。 サトウキビをいくら発酵させても、昆布からとれるような本物の調味料は出来ないのです。 また、精製する過程で塩酸や界面活性剤といった化学薬品を使うので、化学調味料は化学調味料なのです。 |
ん? ナニイッテンダ??
一見、化学的に合成されたものではないと錯覚しそうですが、 |
「一見……錯覚」も何も、化学的に合成されてませんが。
サトウキビにはグルタミン酸が含まれていません。
だから、米を発酵させて作る清酒や麦から作るビールとは訳が違うのです。 |
米にも清酒は含まれてないし、麦にもビールは含まれてないよ。
もちろんアルコール発酵と比べて発酵の種類は違うが、そういう話をしているのではないのだな、どうやらこの人は。
どうもこのあたりは日本語というか、文脈のつながりが無茶苦茶になってくる。
糖分をとったあとの廃糖蜜を、グルタミン酸を生成するグルタミン酸菌という菌にえさ(炭素源)として与えます。
サトウキビをいくら発酵させても、昆布からとれるような本物の調味料は出来ないのです。 |
この2つの文のつながりのなさを、本人は本当にわかってるのか?
まさか、昆布を原料にすれば「本物」のMSGが取れるなんて言ってるわけじゃないよね。
このあたりになると論理性は全く放棄で、思考停止の読者にイメージだけをすり込もうとしているようだ。
で、結論めいたものがこれだと。
また、精製する過程で塩酸や界面活性剤といった化学薬品を使うので、化学調味料は化学調味料なのです。 |
あれれれれれれれれれれれれ。
石油から作ってるから化学調味料だったはずだけども。
なんか話がすり替わってますなあ。
「途中で化学薬品を使うから化学調味料」って理屈はこれまでこのエントリの中でも全く出てきてないし、世の中にもこんな定義している人はいないだろう(いやしかし、世の中広いからなあ……)。
この理屈でいっちゃうとたいていのものは化学調味料になっちゃうはずだけども。
で、そうなるとMSGだけをことさらに「化学調味料」といって非難する特殊性すらなくなるんだけども。
いいのですかい、それで?
自分の話を無理矢理通すために、世の中のいろんなものを無理心中のように巻き込もうとしているねえこの人。
以下、コメントつけないけどバカみたいなので晒す。
アミノ酸で食品添加物に指定されているのは、
・グルタミン酸ナトリウム があります。 アミノ酸飲料のルーツは、ある製薬会社が開発したスポーツ飲料でしたが、 「以前、アミノ酸入りのスポーツドリンクがブームとなりましたが、 しかし、作り過ぎて在庫が溜まってしまい、それを製薬会社会長の ですから、スポーツドリンクは点滴液を飲んでいるのと同じなんです。 アミノ酸飲料についても同様のことが言えます」 病気でもないのに点滴用の液を飲んでいるとは…。 【参考】食品のカラクリ 別冊宝島編集部編 |
突然食いたくなったものリスト:
- ボンタンアメ
本日のBGM:
銀の翼 /STARLESS
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