「つけ麺」名称の普及(CM動画から)

 もう当たり前になった「つけ麺」。現在では一般的な名称はだいたい「つけ麺(あるいは「つけめん」)」で定着しているが、もともとつけ麺の「元祖」と言われる池袋大勝軒では「もりそば」と呼んでいる。そもそもこのもりそばは山岸一雄氏が中野大勝軒の店長時代にまかない料理から商品化したものだと聞くが、その中野大勝軒ではこれを「つけそば」と呼ぶ。


 他にもいろんな名称がある中、「つけ麺」という名称が浸透した理由として、1つはチェーン店「元祖中華つけ麺大王」の存在が挙げられている。
 つけ麺大王は1973(昭和48)年に創業、「つけ麺」という名称自体、つけ麺大王が作ったのだそうだ。その後全国各地にフランチャイズ展開し、その拡大によって「つけ麺」という名称が広がったという。
 
 ただ、つけ麺大王がそこまでメジャーな存在だったか、人口に膾炙するほどの知名度があったかはアヤシイと思っている。
 あくまでも関西での実感ではあるが。
 
 つけ麺大王以外の、もう1つの「つけ麺」名称普及の理由として挙げられるのが、1977(昭和52)年ハウス食品が発売した「つけ麺」。もちろんインスタントラーメンのバリエーションだ。
 この商品のCMが大量に流され、商品が市場に流通する(結構ヒットしたらしい)ことで「つけ麺」の名称が普及したという。
 
 ラーメンやつけ麺の歴史を書いた文献を読むとここはかなりあっさりと流されていて、それこそつけ麺大王よりも小さな扱いを受けていることも多い。時には触れられさえしないことも。
 しかし私はおそらく、この商品こそが「つけ麺」という名称を浸透させる一番の要因だったのだろうと考えている。
 
 思えば「ラーメン」という名称もそうだった。
 それまで「中華そば」「支那そば」「ラーメン」などと呼ばれていたものが、1958(昭和33)年発売の日清食品「チキンラーメン」の大宣伝とヒットによって「ラーメン」として定着していった。
 「ラーメン」という名称は誰がつけたか諸説あるが、醤油ラーメンの元祖といわれる札幌の竹家食堂の主人、大久昌治(しょうじ)氏の妻・タツさんという説が大きい。
 この影響で北海道ではチキンラーメン発売以前より「ラーメン」の名称が浸透していたそうだが、全国的な呼び名ではなかった。
 やはり「ラーメン」という名称の普及は「チキンラーメン」の全国にわたる大宣伝効果ということになるだろう。
 
 これと似たような現象が、つけ麺にもあったのだろうと。


 さて、先日、YouTubeで「70年代 ハウス食品CM集」という動画をみつけた。
 70年代のCM動画が残っているということは当時ビデオデッキを持っていた家庭ということで、アップ主はなかなかのお金持ちなのだろうと拝察する。
 
 この中に、「つけ麺」のCMが何本か収録されている。
 
 起用タレントは女優の高瀬春奈と漫画家のはらたいら。CMでは夫婦を演じている。当時は2人とも知名度のある人たちで、全国放映のCMには十分な布陣だったといえる。
 この動画をみると、「つけ麺」のCMは季節に合わせて結構多く制作されたようだ。結構ヒットしたという話は本当のようだ。多くの地域ではそもそもつけ麺という存在自体が未知のもので、食べ方を含めてこのCMで知ったという人が大半だったことだろう。ただし、CMの中で紹介されている食べ方(調理例)は今の私たちのつけ麺の食べ方とはずいぶん違う。「インスタントならでは」といえば確かにそう言える食べ方だ。
 
 この動画はタイトルどおり、70年代のハウスのCMという括りなので今回の話題と関係のないものも多いが、とりあえずこの動画からCMを見ていきたい。

■00:03~ ハウス「つけ麺」
 
 「湯気の向こうに、うまさが見える」というコピー。
 まるでラーメンのようにお湯?の中に麺と具を盛りつけた鍋からつけ汁につけて食べている。コピーからも判るように、麺は熱い。釜揚げに近い食べ方かな。あるいはむしろ鍋の〆に近いかもしれない。つけ汁は、この動画からは判りづらいが、やたら湯気を強調したCMの中でつけ汁からは湯気が出ていないようにも見えるので、つけ汁は冷たいのかもしれない。
 また、このCMでは釜揚げの釜…というか鍋は、1人1つ用意されている。しかしこれ以降のCMでは1つの鍋を複数でつつくという食べ方になっている。
 
■04:15~ ハウス「冷しつけ麺」
 
 「新しい夏 新しいつけ麺」というコピー。
 これは「つけ麺」のバリエーション、季節商品の「冷しつけ麺」。水で晒して冷たい麺で食べる。
 わざわざ「冷し」を出したということは、ハウスの「つけ麺」は麺は熱いまま食べるというのが基本なのだろう。
 インスタントラーメンだし麺を変えているわけでもない。単につけ汁を変えただけの商品のようだ。普通の「つけ麺」が「ごまだれ」と「のりじょうゆ」であるところ、「冷しつけ麺」では「めんつゆ」になっている。
■04:30~ ハウス「つけ麺」
 
 「春風駘蕩 ハウスのつけ麺」というコピー。リズムがいいコピーだね。
 「春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)」とは、「春風がのどかに吹くさま」だそうだ(コトバンク)。
 つまりこれは春のCMであると。
 これも最初のCMと同じく、茹で湯に麺が入った状態に具を盛りつけて、そこから釜揚げのように麺をつけ汁につけて食べる。はらたいらのセリフから、つけ汁は「たれ」と呼んでいることがわかる。
 ちなみに00:03のCMでは麺はつけ汁につけきっていないが、こちらでは麺はつけ汁に一度ボチャンと沈めている。
■04:45~ ハウス「つけ麺」
 
 「秋 鮮やか。」というコピー。
 そのまんま、秋のCM。
 このCMソングもそうだが、「つけ麺」のCMは一貫して「湯気」を強調している。あくまでも麺は釜揚げだということ。インスタント麺を皿に盛ってしまうと、かなり早く麺どうしがくっついてしまうことも理由かもしれない。
 いろんな食べ方を提案するというのもCMの役割であって、今回はみんなで一緒に鍋を囲んで、まさに今でいう永谷園のラーメン鍋のような食べ方になっている。よく見るとつけ汁に麺をボッチャリ落とす人もいるし、つけ汁へのつけ方も人それぞれと。
 とはいえ、「いま、旬です。」とまで言うのであれば、私なら具材として季節の野菜(きのことか)なんかを盛りだくさん入れちゃうと思うのだけど、見る限りではサヤエンドウとニンジンが少し入っているだけのようだ。大して旬の野菜ってわけでもない。このへんは中途半端かなあと思ったりもするし、逆に「つけ麺」はあくまで鍋ではないってことなんだろう。
 CMの最後には「さらにおいしくなりました」とある。
 改良を加えて発売するほどちゃんとヒットしている。
 
■05:30~ ハウス「冷しつけ麺」
 
 「本日。カンカン照り。」というコピー。
 これも夏限定の「冷しつけ麺」。「夏用特製」だそうだ。
 高瀬春奈さん、やるなあ。ビキニになっている。胸の揺れ方が凄い。しかも子供も出てくる。母さん設定なんだ。ビキニ、やるなあ。
 前の年は水で締めていたがこの夏は氷で締めて、完全にそうめんだ。
 
■13:43~ ハウス「冷しつけ麺」
 
 「ハウス名物 冷しつけ麺」というコピー。
 前のとはずいぶん趣が違うから、翌年の夏だろうか。このCMは同じくYouTubeに上がっている「’80-92 もう見られない? 珍しい? CM集 vol.6」という動画にも収められていて、その解説には1981年とある。
 ビキニのダメージなのか、高瀬春奈さんが出ていない。(彼女はこの時期に体調不良により映画を降板したりしてるのでその影響かも)
 このCMも、完全にそうめんのイメージだ。CMソングで「和風中華のタレ」と言っているので、これは単なるめんつゆではなく中華的な味つけ(ごま油とか酢とか??)らしい。
 はらたいらはCMの最後に出てくる。子供は前回と違う。
 
 ……とはいえ、ここまでのCM、解説がないので時系列的な前後関係は判らないんだけどね。
 
 YouTubeには他にも、「1978 ハウス つけ麺」という動画が上がっている。さっきの動画にはない、正月バージョン。
 さっきの動画の00:03~のCMと同じく「新発売」を謳っているので時期も近いはず。「つけ麺」の発売が1977年であることを考えれば、さっきの動画の00:03~のCMが1977年暮れ(長袖だし湯気をやたら強調するし)、これが1978年正月ということではなかろうか。

 正月バージョンは家族でつけ麺。趣としては完全に鍋料理だ。
 「正月、あつあつ」というナレーションのとおり、とにかくハウスの「つけ麺」は熱いことがポイント。CMでは湯気を映すことにかなりの努力が払われている。
 この動画には15秒バージョンと30秒バージョンの2本のCMが入っている。1本目でちゃんと麺が取れていた右側の女の子が、2本目のCMになると麺が全然取れていないところが地味に面白い。
 あと、背景の掛け軸が「謹賀新年」ではなく「謹賀新麺」となっているという芸の細かさもある。

 とまあ、ハウス「つけ麺」のCMを見てきた。
 1977年発売で、1981年のCMまで確認できたので、数年間はCMがたくさん流されたのだろう。
 つまり、「つけ麺」の名前の普及はこの時期に圧倒的物量のTVCMと商品流通によってなされたと考えていいんじゃないかな。
 関西以外の事情はよく判らないが、この製品がなくなってから関西に(インスタントではない)「つけ麺」が上陸してくるのはこれよりかなり後。このタイムラグがあるにもかかわらず「つけ麺」という名前が浸透した事実も興味深いが、今のところとっかかりがないので深くは突き詰めないでおこう。

 この一連のハウス「つけ麺」のCMには、ラーメンのCMにありがちな「お店で食べる味をご家庭で」というスタンスがまったく見受けられない。
 ラーメンの場合はやっぱりどこかに「どこかにあるホンモノ」をインスタントとして再現したものだという感覚が出てくる。
 しかしおそらく当時も、お店でつけ麺をこんな感じの釜揚げ麺で出していたところはほぼなかったのではないだろうか。勝手な推測としては、つけ麺大王などのつけ麺の存在からインスタントラーメンをつけ汁につけて食べるメニューを発想し、しかしインスタントの場合麺をそのまま皿に盛りつけるとすぐに乾いて麺同士でくっついてしまうところから釜揚げでの食べ方提案を思いついたと。特定の手本となるメニューがあったわけではなく。(これは全くの推測)
 
 この商品は「つけ麺」という名前ではあるけれど、私たちが知っているつけ麺とは違うものなのだ。
 
 ハウス「つけ麺」はその名前は普及させたが、その食べ方を(少なくとも外食産業に)普及させることできなかった。
 私たちは今、「似ているけれど別のもの」として普及した名前を、それとは違うものの名前として使っているわけだ。
 
 これはなかなかおもしろい話だ。

 これ以降は雑談。
 動画の他の部分について。

■00:20~
 インスタントラーメン「シャンメン BiG」のCM。
 若い頃の矢沢永吉に「ビ~~ッグ!」って言わせてるのも凄いけど、それにしても矢沢、イケメンだねえ。
 
■06:30~ 09:15~ 11:45~
 大場久美子が出ているCM3本。
 今見てもかわいいなあ。
 ちょっと気づいたんだが、ももクロのしおりんは大葉久美子に似てる気がする。



大場久美子

 また、カレーってところがねえ。(^O^)
 
 もう1つ、話の途中で出てきた「’80-92 もう見られない? 珍しい? CM集 vol.6」という動画。麺類のCM限定の動画だそうだ。

 アップ主の説明によると、

麺類限定(ドレッシングあり)です。
1980 エースコック 焼豚ラーメン
1980 日清食品 めんコク
1980 明星食品 うまかめん
1981 ハウス食品 冷やしつけ麺
1982 カネボウ 広東ラーメン タンメン
1982 カネボウ ニュータンメン
1982 東洋水産 華味餐庁
1982 サンヨー食品 田吾作 きつねうどん たぬきうどん
1984 サンヨー食品 サッポロ一番 オロチョン
1984 サンヨー食品 サッポロ一番 ほたて味らーめん×2
1984 サンヨー食品 サッポロ一番 ソースやきそば
1984 ハウス食品 303
1984 日清食品 さふらわあ(ドレッシング)
1984 日清食品 わかめめんコク
1984 日清食品 はかたんもんらーめん
1984 明星食品 ラーメン紀行×2
1985 エースコック 好
1985 日清食品 タコヤキラーメン
1985 サンヨー食品 サッポロ一番 Mini Cup
1985 明星食品 青春という名のラーメン
1986 明星食品 青春という名のラーメン
1986 エースコック 走れ!!牛ちゃん
1986 日清食品 ベジタブルヌードル
1992 サンヨー食品 サッポロ一番 ケンちゃんラーメン×2

 ということだそうだ。
 80年代初旬はまだインスタントラーメンも「中国」志向が強いことが伺える。「本格」=「中華」という発想。
 あとはやたらチープなのが混じってるところがいい感じ。
 
■03:07
 山本理沙。懐かしい。けっこうかわいい。
 
■03:15
 うわー、工藤夕貴だ。若いなあ。当時の彼女の記憶は、セーラー服ばかりだ。しかしヤカンがデカすぎるだろ。(^O^)
 
■04:45
 鮎川誠(サンハウス~シーナ&ザ・ロケッツのギタリスト)が出た「はかたんもんらーめん」のこのCMは名作だよな。「はかたんもんな おうどうもん あおたけわって へこにかくばってん らーめん」というのはコピーかと思ってたら、このまんま商品名だったのか。ラノベ先取りやな。(^O^)
 
■05:45
 フローレンス芳賀って女の子。『青い瞳の聖ライフ』ってドラマに宮川一朗太と一緒に出てた。Wikipediaによると「父(ドイツ系アメリカ人、在日米軍であった)と母(日本人、横須賀出身)との間に長女としてアメリカ合衆国ハワイ州ホノルルに生まれる」「大学(UCLA)在学中に訪日し、スカウトされる」だそうだ。
 そうか、母親は日本人か。
 いや、このCMのこの子、麺をすするのがやたら上手いんだよなあ。(^O^)
 
■07:00
 「青春という名のラーメン」。うん。そうですよ。これ。
 いや、この商品自体はかなり短命で終わった商品なんだけども。
 商品のネーミングやら何やら、このあたりから本当に「80年代」という感じになってきた。70年代から時代が変わったという感じの節目にあった商品。
 しかしまあ斉藤由貴、かわいいなあ。うん。
 
■07:30
 笑福亭鶴瓶、若いなあ。この頃はアイドルやってんで。ほんまやで。


突然食いたくなったものリスト:

  • ソース焼きそば

本日のBGM:
YOU /矢沢永吉
矢沢永吉って別に好きだと認識したことなかったんだけど、久しぶりにベスト聞いて見たら好きな曲が結構たくさんあって、うん、きっと好きなんだなと思った。(^O^)





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