前のエントリのコメント欄で少し話題になった、落語の「らくだ」という演目の話。
全体のストーリーは面倒くさいので「らくだ (落語) – Wikipedia」を読んでもらうとして、これのある一部分の話。
「らくだ」という通り名の男が長屋の自分の家で死んでいて、それをらくだの兄貴分が見つける。兄貴と呼ばれていた手前、葬儀を出してやりたいがバクチで全部盗られてカネがない。どうしようかと思案していると、ちょうどそこに屑屋が通りかかる。呼び止めて家財道具一色を買い上げろと迫るがこの家には買い取るものは何もないという。じゃあ仕方がない、長屋の月番のところに行って香典を集めるように言ってこいと半ば脅しのようにして(1)屑屋を使いにやる。帰ってきた屑屋に、今度は大家のところに通夜に出す酒と肴を持ってこいと言ってこいと、また脅す。(2)屑屋が大家のところに行く……
この(1)と(2)の部分の描写(屑屋が出向いて行き、らくだが死んだことを告げて相手がそれを信じるまでの描写)が演者によって様々で、この違いがなかなか興味深い。
書き出してみたので、興味があれば読み比べてみてね。
【月番のところ】 屑屋:へぇこんにちは。あのーちょっとお伺いしますが。あのー、今月の月番は、あのーお宅さんでおますかいなあ? 月番:ああ、月番うちやがな。何やな、屑屋はん? 屑屋:えぇ、ちょっと言付け頼まれましたんで。 月番:ほう何ぇ? 屑屋:あのー、長屋のらくだはんがゆうべフグにあたって死にましたんでね。 月番:え? らくだ死によったかァ。はぁ、こりゃめでたいなあ。 屑屋:そんでその、兄弟分のね、脳天の熊五郎ちゅう人が…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:こんちはー。 月番:何だい屑屋ァ? 屑屋:今月の月番こちらでしたか? 月番:そうだよ。 屑屋:あの、裏のらくださんが死んだんです。 月番:え? いつ? ゆうべかい? どうして? フグ食べたあいつが? ……そうかい、そりゃいいことをしたなあ。 屑屋:でその、らくださんの兄ィって人が…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:ええ、月番さん、こちらですね。 月番:おお何だい屑屋さん。何も払いもんなんざァねェぜ。 屑屋:今日は商売でうかがったんじゃないんです。らくださんなんですが。 月番:へッ? らくだがまた暴れてんのかい? 屑屋:そうじゃないんですよ。ゆんべフグにあたって死んだんです。 月番:らくだが死んだ? そりゃいいことをしたねェオイ。フグにあたったの? よくあててくれたなあ。おい、生き返ることはねェんだろうなァ? 今のうち頭ァ潰しとけ。 屑屋:蛇だねまるで。で、兄貴分て方が…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:ごめんください。 月番:おう。 屑屋:えー、こちら様が今月の月番さんで? 月番:おー、俺んとこが月番だい。何でぇ屑屋さんじゃねェか。 屑屋:ええ、あの、お長屋のあの、らくださんですけどねえ、 月番:うん 屑屋:ゆんべフグを食べてね、それにあたってあの、亡くなりました。 月番:え? らくだが? フグ食って死んだ? そいつはいい塩梅ェだなァ。そうかい。何でぇおまえ、わざわざ知らせに来てくれたのか? 屑屋:いいえあの、そのらくださんの兄弟分って方ァ…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:えー、ごめんを。 月番:お、屑屋はんかい? 呼べへんで。 屑屋:いやそやないんで。ゆんべあの、お長屋のらくだはんが死にましてな。 月番:らくだが死んだ? よかったなァ~。そうか、ええ、フグにあたって死んだ? おーそうかそうか。ほんでそれおまえ、知らしに来てくれたんか。 屑屋:いやそやおまへんねん。その、きょ、兄弟分の熊はんちゅう男が…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:ごめん、こんちは! 月番:ヲぃ! 誰や? ああ屑屋はんかい。何や? 屑屋:へえ、あの、この長屋のらくだはん、ゆうべ、フグぅ食うて死にはりましてん。 月番:何? らくだが? フグにあたって死んだ? ほんまかい? 屑屋、なぶってんねやなかろうな? ほんまに死によったんか? ほんまに? はーーーーーーーはっは! よう、よう知らせてくれた。よう知らせてくれた。おおきにおおきに。はぁー、これはもう長屋の連中にすぐに知らすわ。皆喜ぶわ。 屑屋:それについて、あのね、あの、兄弟分の矢田桁の熊っちゅう…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:こんちはー。 月番:あーい。おゥ何でェ屑屋さんじゃねェか。今日は払いもんねェぜ。 屑屋:いえ、あの、今日は……それじゃねぇんですよ。……こちらが今月の月番さんですよね? 月番:オゥそうだよ俺んとこ月番だ。 屑屋:あのう、実は、奥のらくださんが、亡くなりました。 月番:ええ? らくだが? ……死んだのかい? ほんとかよおい。……いつ? ゆんべ、フグ食って、あたって死んだ? ……そらァありがてぇねえおい。いやァあれがいるんでもう長屋の連中は枕を高くして寝らんねェよおい。あああんなイヤな奴はねぇんだよオイ。そうかい。ハァ~そりゃありがてぇやオイ。いや~ありがてぇありがてぇ。よく知らしてくれたなァ。 屑屋:それでねえ、らくださんの兄さんって人が…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:こんちは。 月番:誰だい? よォ、何だい、久さんかい。何だい? 屑屋:えー、らくださんがゆうべ、亡くなったやすが。 月番:へ? 誰が? らくだが? 死んだのかい? へー、そうかい。死ぬ野郎じゃねェんだがナァどうも。 屑屋:何でもフグにやられたという…… 月番:へぇ~、そうかいまぁ……まぁまぁ何にしても、そりゃあよかったねえ、あぁあぁ。……で、知らせてくれたのかい? 屑屋:えぇ今、そのらくださんの兄貴分てェ方が来ているんで…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:月番は、お宅ですか? 月番:あい! あたしだ! 何だい? 屑屋:あのぉ、らくださんのことで…… 月番:あっとっとぃ、ちょっとお待ちよおい。ダメだよらくだのことここに持ってきちゃってもダメだよ。うん。そりゃいけないよ。 屑屋:いえ、あのォ、らくださんが死んだんでございます。 月番:え? らくだ死んだ? ほんとかい? 屑屋:そうなんですよ。 月番:へぇー。……生き返りゃしねぇかい? 屑屋:生き返りません。 月番:いやそうじゃねぇよ、ああいう図々しいのは生き返るかもしれないから、頭よく潰しとかなくちゃいけねえよ。 屑屋:フグにあたりましたねえ。 月番:フグにあたった? へぇ、フグもよくあてやがったな。そうかい。 屑屋:それでその、兄弟分という…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:こんちは。……ちは! 月番:おう、誰? おう、金さんか、屑屋の。何だい? 屑? そうはねぇわな。一昨日だよ確か。おう。ないよ。 屑屋:いえいえ。屑屋じゃなくて、らくださんねぇ…… 月番:おっとっとっとっ、畜生、よせやいらくだの話なんて持ち出すなよ。悪い野郎だなァあいつは。え、うん。やられたんだろ? こんなことやられたのか? 絞められた? え? そうじゃない? これ取られちゃったのか? どうしたよ勘弁してくれよみんなやられてんだよ。な、これは諦めろよ。 屑屋:死んだんすよ。 月番:誰が? らくだが? フフン、喜ばせようったってそうはいかないぞおまえ、え? 何で死んだんだい? 死ぬような奴じゃないよあいつは。ああいうのは生涯死なない、ことによると。うん。ふざけた野郎だねェ。こんなんなってさ。そんな話よくあるんだよ。うん、みんな嘘。 屑屋:死んでるの見てきたんすよ? 月番:誰が? お前が? ほんとに? ほんとかよおい、フ(笑)……何で死んだんだい? 屑屋:フグにあたって死んじゃったんす。 月番:フグにあたって……らくだが死んだ? そりゃありがてぇなあ! え? おい! らくだァ死んだってよ! らくだ! 死んだってよォ! ……ほんとかよォおい。ありがてぇなあ、おい。らくだァ死んだ? え、うん。嘘じゃねぇだろうな、え? 嘘言うとただじゃおかねぇぞお前殺しちゃうぞふざけやがって。え? おい。らくだが死んだ? どォしたい? 屑屋:それでね、丁の目の半治っていう…… 【大家のところ】 |
【月番のところ】 屑屋:こんちは! こんちは! 月番:はい! おい何だ、久さんじゃねぇか。ええ? 屑かよ。おい冗談じゃねえやな。この前来たばかりでいくら貧乏長屋だってそんなもの急に溜まるわけはねえじゃねェか。 屑屋:いや、今日はあの、屑屋で来たんじゃねぇんです。 月番:何だい? 屑屋:あの、らくださんが…… 月番:馬鹿。何てこと言うんだい急にィ。何の支度もせずに急に「らくだ」なんて言うなよォ嫌いなんだから、え? らくだの話がしたかったら手紙で今度らくだの話をしに行きますとか何とかって言えよお前。あるいは入ってくる時におそるおそるな、ら、ら、らく、らく、らくだ……とか何とかお前、活用して入ってこい。この野郎本当にまぁ。チッ、何だいどうしたんだい? 俺嫌ェなんだよ。話聞くのもヤなんだどうしたの? 殴られたの? 蹴られたの? 物盗られたの? それともオカマ掘られたの? 屑屋:いやそうじゃないんです。し、死んじゃいましたよ。 月番:死んだ? この野郎お前、いい加減なこと言って人を喜ばせるなお前。あんなものは死ぬわけねえじゃねェか。ど、どうやったって死なねェよ! 屑屋:いえいえ、あの、フグにあたったそうですよ。 月番:フグにあたったそ、そうですよっていう噂だろ。そういうのはよくある、うん。うん。うん。この前もそう。らくだが半殺しの目に遭って息も絶え絶えだとそういう噂があったんだよ。でみんなで駆けつけていったらそうじゃないんだ。らくだにやられた奴の話なんだよ。で、らくだがこうやって笑ってたもん、ああ。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。いいよいいよ。いいってさ。 屑屋:いえそうじゃないんです。私この目で見てきたんですよ、ええ。あの、死んでましたから。 月番:ほんとかおい? ほんとにらくだ死んだの? ほんとに? ……おい、喜ぶよ? おい、喜んでから嘘だっつったらお前殺すよお前。喜んでいいの? 喜んでいいの? なぁ、喜んじゃうよ。おおおおおお! 死んだからくだが! 嬉しいじゃねぇかおおおおああああ! おいおい誰かに知らせてくれよオイ。誰かに分けたいじゃないかこういう幸せをよォ。……お、おい源ちゃん源ちゃんこっち来い! らくだが死んだらくだが死んだ、おいおい久さんが言うんだから間違いねェ。フグにあたって死んだんだとよォ。ああ嬉しいな、おおおおい、ええ? よく、よく死んでくれたよな。 屑屋:そ、そうなんです。あの、それであの、あたしちょっと今、寄っただけなんですけども、実はあの、丁の目の半治って兄分が…… 【大家のところ】 |
突然食いたくなったものリスト:
- 吉四六の焼飯
本日のBGM:
A Hard Day’s Night /ちわきまゆみ
Day Tripper /YELLOW MAGIC ORCHESTRA
YouTubeのビデオには、「ぶっ飛んだテクノアレンジの名曲対決です 1/ ちわきまゆみ – A Hard Day’s Night 2/ Devo – (I Can’t Get No)Satisfaction 」とかいってDEVOのカバーも入ってる。でもこの曲と対決させるんだったらやっぱりYMOの「Day Tripper」だよねえ。
1 個のコメント
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AUTHOR: 黒猫亭
URL: http://kuronekotei.way-nifty.com/nichijou/
DATE: 10/13/2009 10:12:55 AM
お疲れ様です。
こうして並べてみると、どうやらhietaro さんが仰る方向性は志ん生の流れではないかと思えますね。小さんの口演でも、大家のセリフでらくだの死を疑うニュアンスと「頭潰しておく」と謂う言い回しが出ていますが、これは寧ろ志ん生の口演を参考にしたのではないかと思います。
談志も小さんの弟子ではありますが、小さん直系の弟子の小三治の噺にはそれらのニュアンスがまったくありませんし、この噺はまさに三代目の小さんが関東に持ち込んだものですから、関東版のらくだ全般に同じようなニュアンスが共通していない以上、三代目小さんからの流れのらくだは関西版とそれほどニュアンスが変わらなかったのではないかと思います。
で、志ん生の口演で、「らくだのようなしぶとい奴は殺しても死ぬはずがない、何かの間違いか担いでいるんだろう」と謂うニュアンスが入ってきて、それを五代目小さんが参考にして採り入れた、そして談志のほうはもっと直接的に志ん生流のニュアンスを強調する方向で自分のものにした、そんなところではないでしょうか。
以前圓生の「百年目」についても申し上げたことですが、噺の中で特徴的な言い回しが共通している場合は直接的な承継関係を想定したほうが妥当だと思いますので、たとえば「生き返らないように頭を潰しておく」「フグもよく当てやがった」と謂うのは、偶然同じセリフが出るものではないですから、志ん生の口演が五代目小さんや談志に影響したと視て好いと思います。
小さんと談志の関係はhietaro さんもご存知のことと思いますが、多分に師と張り合うような動機もあって小さんが若干採り入れた志ん生の流儀を強調して採り入れているところもあるんですかね(笑)。ただこれ、やっぱりご指摘の通り、志の輔くらいになるとかなりしつこいですね。
個人的には、やっぱりこのニュアンスは小さんか志ん生のレベルが相応で、あんまり談志ほど強調するとどぎついような気がするんですが、上方のほうでは誰もその方向性ではやっていないですね。この両者の違いと謂うのは、らくだのしぶとさや傍若無人さに対して長屋の連中が半ば誇張された恐れを抱いているかどうかだと思うんですが、あんまりびくびく怖がっていることを強調すると、生前のらくだの暴力性が洒落にならないだけに、長屋の連中の被害者性が強調されすぎてちょっと笑えないような気がするんですね。
松鶴はらくだのような「ごりがん」な人物像を表現するのが巧みですから、そこまで強調しなくても随分横道者だと謂うことが伝わりますし、大阪の気風として、こう謂う人物を恐れると謂うより鼻つまみとして嫌うと謂う方向性になるのかな、と思います。どうも上方落語に出てくる大阪のおやっさんと謂うのは勇み肌の人が多いですから、大家のほうも内心らくだを恐れていても結構突っ張っていますよね。
松鶴でも米朝でも、長屋の連中はらくだが暴れ出すと厄介だと恐れてはいるけれど、びくびく逃げ隠れしていると謂う印象ではないですね。何だったらこっちだって負けてないぞ、と謂う気概がある。その辺が大阪の庶民の気っ風なのかな、と思います。らくだやその兄貴分に脅されていくじなく言いなりになるのは、出入りの屑屋くらいなわけですが、この気の弱そうな男が、一旦酒が入ると…と謂うのがこの噺の眼目ですね。
ただまあ、談志の方向性も、それはそれで一つの解釈としてアリはアリだろうとは思います。
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COMMENT:
AUTHOR: hietaro
URL:
DATE: 10/17/2009 10:26:49 PM
>多分に師と張り合うような動機もあって小さんが若干採り入れた志ん生の流儀を強調して採り入れているところもあるんですかね(笑)。
2人の関係は、ネット上で少し見たくらいなので、その関係がネタにまでどの程度影響を与えているのかはよく知らないんですが……。
ただ、私は初めてこの噺を聞いた時に、「そんなに簡単に信じるの?」と思いました。死ねば長屋のみんなが強飯を炊いて喜ぶくらいの人物の死を、「死にました」「そりゃいいや」となるのは少しリアリティに欠けるなあと。これは単なる隣人の死であっても。
ですから談志を聞いた時は「それが自然だよな」と感じましたし、まさに「リアリティ」という観点で談志はこういう展開にしたのだろうな、と思った次第です。
ただ、「らくだ」について談志は「『らくだ』は志ん生である」と言っているくらい評価していますから、志ん生からの影響は大きいのだと思います。
>びくびく怖がっていることを強調すると、生前のらくだの暴力性が洒落にならないだけに、長屋の連中の被害者性が強調されすぎてちょっと笑えないような気がするんですね。
私はむしろ、長屋の連中が被害者性を強調すればするほど逆に生き生きする(^O^)という倒錯した部分に面白さを感じます。
談志の長屋の連中は「びくびく怖がっている」というよりは「無茶苦茶ぶりに呆れ、諦めている」というように見えます。そこでこの「諦め」に至った無茶苦茶なエピソードを語るという部分に、むしろ「被害者性自慢」じみた部分が出て、これがこの部分の笑いにつながっているように思えます。
この部分があるからこそ、長屋の連中もまたこの噺の「登場人物」(路傍の石ではなく)として噺に華を添えていると思うのです。
つまり、ストーリーに自然さを与え、登場人物を「増やし」、さらに大家と屑屋の関係という緯糸まで潜り込ませた……という工夫を、「らくだ」という噺に与えたのだと思うんです。この部分、完成させたのは談志だろうと。
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COMMENT:
AUTHOR: 摸捫窩
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DATE: 10/18/2009 02:23:39 AM
こんばんは。
個々の演者の語りの差異は、演出意図や芸の継承の系譜を表しているかもしれないという事は、大変興味深く感じられました。
芸の継承と言った論点とは少し離れてしまうかもしれませんが、ちょっと気づいたことを書いて見たいと思います(私は複数の演者の聞き比べをしたことがほとんどありません。もし的外れな内容であったらごめんなさい)。
志ん生の系譜に現れる、“頭を潰した方が良い”という趣旨の台詞についてですが、これが店子や大家のらくだに対する恐怖(死への疑い)を表しているというのは、まさにそのとおりだと思います。その一方で、これが蛇を連想させる言葉である点にも意味があるのではなどと考えています。例えば、生殺しの蛇は仕返しにやってくるので頭を潰さなければならないという俗信は良く聞くように思います。また蛇蝎のように嫌うという言い回しもあります。さらに、中々死なないとか生き返るとかの蛇のイメージは、かんかんのうへも連なっていくと言うこともできるのではないでしょうか。
つまり、らくだの性質や物語のモティーフに関する連想ゲーム的な考え方があって、そのの下に「頭を潰しておく」という言い回しを用いた演出が作り上げられたとは考えられないでしょうか。
>談志を聞いた時は「それが自然だよな」と感じましたし
文章で比較すると私もそのように感じました。このような視点でそれぞれのテキストを見ていくと、確かに伝聞からの事実認定が余りに簡単な気がします。それまで散々悩まされた迷惑者なのですから、死んだなんて話も実は嘘で罠じゃないかと疑う位が丁度よいのではなどと思ってしまいます。
ただ、私は実際に聞いたときにはそうした点についてあまり疑問に思いませんでしたので、文章ではなく実際に談志を聞くとちょっとくどいと思ってしまうかもしれません。
なお、私も数度「らくだ」を聞ているわけですが、演者が誰だったのか記憶にありません。ただ、もしかすると馬生かもしれません。“まるで蛇だね”のような意味の言葉をなんとなく覚えています。
余談ですが、前のエントリに黒猫亭さんが記されているように、「らくだ」はやや苦手な部類に入ります。おそらく私にとっても、理不尽な振る舞い(酒乱であれ恫喝であれ)という部分が引っかかるところのようです。そんなわけで酔っ払いが理不尽に振舞う「一人酒盛り」、「うどん屋」なども私にはちょっと“合わない”演目でした。酔っ払いが登場する場合、特に演者が上手な場合、酔っ払いがあまりにリアルで、本気で疎ましく感じてしまうのです。
議論の方向性とずれた内容で申し訳ないです。
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COMMENT:
AUTHOR: hietaro
URL:
DATE: 10/20/2009 03:11:56 AM
>摸捫窩さん
>例えば、生殺しの蛇は仕返しにやってくるので頭を潰さなければならないという俗信は良く聞くように思います。また蛇蝎のように嫌うという言い回しもあります。
仰るとおり、私も、殺しても死なない[しぶとい奴|イヤな奴]という意味を重ねているのだと思います。
>さらに、中々死なないとか生き返るとかの蛇のイメージは、かんかんのうへも連なっていくと言うこともできるのではないでしょうか。
つまり、らくだの性質や物語のモティーフに関する連想ゲーム的な考え方があって、そのの下に「頭を潰しておく」という言い回しを用いた演出が作り上げられたとは考えられないでしょうか。
かんかんのうに関する知識はwikipedia以上のものはないのですが、その歌詩ではなく、死者を踊らせる⇒生き返り といった連想の話をされているのだろうと思います。とすれば、なるほど、そういうつながりを考えることもできそうですね。
……とすれば、ですよ。
この話の(省略されることの多い)サゲとして、ソーレンの途中でらくだの死体と入れ替わった願人坊主が火葬場の中で目を覚まして大騒動、という場面になりますが、もしこれ、かなり小さなエピソードとして挿入されている「願人坊主との入れ替わり」がなかったとしたら、そのまんま、らくだの行き帰りの物語になるんですよね。とすればその連想ゲームは大上段で完成するのかな、とか。(^O^) いやまあ、今ふと思っただけなんですが。
Wikipediaの「らくだ」の項の冒頭にあるように、この話は主人公?であるらくだが、「登場したときにはすでに死人であるという、他に例の無い話」であって、この話はハナの初めから、それぞれの登場人物の「らくだの死」との距離感の違いが、話の面白さというか、深さを成り立たせているんですよね。
しかしらくだという話はあまり評判がよくありませんね。(^O^)
私はあまりそういう嫌悪感は感じなくて……と、ふと気づきましたが、私は「宿屋仇」に出てくる源兵衛(色事の告白をする、3人組の1人)がかなりイヤです。(^O^)
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COMMENT:
AUTHOR: 黒猫亭
URL: http://kuronekotei.way-nifty.com/nichijou/
DATE: 10/20/2009 09:23:13 AM
>hietaroさん、摸捫窩さん
お二方のお話を伺って、大分見えてきたように思います。理詰めで考えるなら、多分この噺ではたしかにらくだに対する恐怖ってのは重要な要素になって、立川流ではそこを強調する演出になっているんだろう、と謂うストーリーが見えてきましたので、まあ、長くなりますからその辺はウチで引き取ってエントリを起こします。
>>しかしらくだという話はあまり評判がよくありませんね。(^O^)
まあ、普通そうでしょうね。落語にはかなり悪趣味な噺も多いですが、この噺は世間の感覚だと洒落にならないネガティブな要素がかなり盛り込まれていて、思い切ってグロテスクでバッドテイストな噺ですから、好みの別れるところではありますね。その辺についても思うところがあるので、後ほど。
>>私は「宿屋仇」に出てくる源兵衛(色事の告白をする、3人組の1人)がかなりイヤです。(^O^)
落語は一種のスターシステム(厳密には違いますが)に則っていますので、名前だけ視ると「三枚起請」と同じ面子なんですが、片や兵庫の「しじゅうさんにん」で片や大阪の友達同士なので完全に別人ですね。宿屋仇で矢鱈に空威張りする源やんは、三枚起請の悪賢い遊女と対決してやり込める頼もしい兄貴分の俤なんかまったくないですからねぇ(笑)。
この噺に出てくる三人組は、大阪人から視た極端にカリカチュアライズされた兵庫人ですから、大阪のゴリガン野郎とは別種の野卑な粗暴さがあって、クライマックスの源やんの色事の話も「侍の奥方と間男して、人を殺して、五〇両盗って逃げた」なんてことを自慢しているところが、嘘にもせよつまんない蛮勇を誇る辺りが薄っぺらいですね。
その一方では、使用人の伊八には権柄尽くで威勢がいいのに、隣客が二本差しだと識ると途端に意気地がなくなるのも、まあ庶民らしさと謂えばそれまでですが、ちょっと厭らしい。この辺の、侍を怖がっているくせに、侍の女房を寝取って武芸の達人を殺したと謂う自慢話をしている辺りが滑稽味なんでしょうけど、ちょっと厭味な笑いであることはたしかです。
ただ、個人的にはこの噺は割合好きで何度も聴いています。テーマ自体は騒音被害と謂うちょっと生々しい話なんですが、万事世話九郎のキャラが救いになっているんですかね。よく考えてみると、扱っている素材は割と不愉快だし、オチも冴えない噺で、構造的には何処が面白いんだかよくわからない噺なんですが、不思議と面白い。多分、シットコム的なドタバタが映像的で面白いのかな、と思いますが。
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COMMENT:
AUTHOR: hietaro
URL:
DATE: 10/24/2009 01:21:13 PM
では続きは黒猫亭さんのところで、ということで~。
http://kuronekotei.way-nifty.com/nichijou/2009/10/post-af88.html