いくらなんでもあんまりだと思うので、珍しく?社会派なことを書いてしまおう。
ちょっと長いけど。
生駒市の病院の話。
私は生駒には住んでないんだけども、ちょっとした因縁があって、いろいろ話を聞くのだ。
要は、奈良県なり生駒市なりの医師会が、患者のことなんか考えちゃいないって話。(個別の医師はもちろんそんなことないと思うが)
生駒市では現在、新たに市立病院の建設計画がある。
この、市立病院が次々と閉鎖していっている御時世に。
大阪では先日、松原市の市民病院が閉院して市長のリコール騒動があったばかり。こっちは署名が足りなかったが、千葉県銚子市ではリコールが成立して市長が失職する事態にもなった。
いずれの病院も財政的に赤字で、そうなると医師を雇う余裕もなくなり、1人の医師への負担が大きくなり、ますます辞めていき……といった悪循環の末の決断のようだ。
どの自治体も、市民病院の経営には多かれ少なかれ苦労している。
にも拘わらず、生駒市は市立病院を新設するのだと。
生駒市にはもともと奈良県国民健康保険団体連合会が運営する生駒総合病院という病院があった。しかしこれが2005年の3月に閉鎖してしまった。地域の中核医療施設ではあったが、老朽化がかなり進行しており、地元の人も「できれば別のところに入院したい」と思うくらいのボロい病院になっていたという。とはいえ総合病院だからして、なければ困る……という位置付けだったそうだ。一時期の国立泉北病院みたいな感じかなあ。
この病院は赤字ではなかったそうだが、新しい機械を入れたり建て替えたりするにはカネがかかるし、もともとの設立目的である「医療を受ける機会をつくる」という目的は達した……ということで、赤字に転落して2年ほどで、あっさりと閉鎖を決めたという。
閉鎖に反対する署名運動もあったが、こういうのはいかんともし難いわね。
で、翌年(2006年)、その後継病院を市立で建てると公約して新市長が誕生した。(ちなみに前市長は加重収賄で逮捕されて裁判中)
署名運動もそうだけども、生駒総合病院の後継病院問題は生駒市ではずっと深刻な問題だったわけだ。生駒市医師会も市に対して何度も新病院建設の要望書を出している。
市立病院とはいえ、市は直営にするつもりはなく、いくつかの案を持っていた。独立行政法人だとか誘致方式とか指定管理者方式とか。指定管理者方式は総務省が公立病院の経営方式として推し勧めている方で、施設の管理・運営を株式会社など営利団体を含む団体に代行させる方式。第3セクターで破綻したホテルの再建とかでたまに話題になってるやつね。かなり柔軟的な運用ができて、黒字が出たら一定の割合で自治体にカネが入るようにするとか、協定次第でいろいろなやり方ができるそうだ。
生駒市は最初、公的医療機関に運営主体になってくれないかと交渉したそうだが、どこからも断られた。病院マーケティング?的に、生駒市はさほどおいしい地域ではないらしい。それに病院のベッド数が二転三転したこともあったようだ。
「病床(ベッド)数」というのは……。現在の法律では、地域ごとに病院のベッド数が決められている。「この病院は200床の病院」てな感じ。1床につき医師何人、看護婦何人、みたいに決められているから、ベッド数はそのまんま病院の規模に直結する。
病院というのはできれば大きい方が経営的にはいいわけだけども、上述の通り地域ごとに病床の数は決まっていて、例えば1000床の地域で250床の病院が4つあれば、もう新しい病院を建てたり今ある病院が増床することはできない。じゃあずっと新病院は建てられないかといえばそうではなく、それまで病床を持っていた病院が潰れたりして地域にあるベッドが1000床より少なくなってしまった場合はその分のベッドを割り当ててもらうことができる。
……とまあ、そういうことで、生駒市立病院計画はその時に割り当て可能なベッド数を見込んで「この規模の病院を作りたい」と医療機関と交渉していたのだけども、その最中に他の病院の増床申請が認められたりして計画規模をちゃんと決めて交渉できなかった。
病院マーケティング?的においしくなくて、しかもベッド数も少ないってんじゃ、なかなか手を挙げてはもらえないわなあ。
生駒市でそういう病院問題を考える委員会(市議会の委員会じゃなく)も、「公的医療機関だけじゃちょっと無理そうだし、民間にも声かけようよ」なんてことを決めてはみたけども、やっぱりなかなかうまくいかない。
仕方なく生駒市は、渋る医療機関には見切りをつけて運営主体を全国から一般公募することにした。
すると、応募してきた病院が1つだけあった。
それが徳洲会だった。
運営方式は、指定管理者方式。
市が土地と建物を用意して、機械は徳洲会が出す。建物の建設費は分割で徳洲会から市に返す。利子と土地の賃料は地方交付税から賄う。黒字が出たら全て徳洲会がもっていく。赤字が出ても市は補填せず、これも徳洲会が被る……。
これは市にとってなかなかおいしい。何といっても市立病院の一番の問題である「底なしの赤字」がなくてすむ。建設費もほどんど戻ってくるので、実質的な市の負担は非常に小さくてすむ。
しかも指定管理者方式での不安材料である、「指定管理者が倒産したらどうするの?」という部分も、なんせ徳洲会だから(^O^)それも考えがたい。医師不足の問題も、世界第3位というスケールメリットを活かして融通がきく。
まさにいいことずくめ。公立病院って、こういう運営でいいんじゃね? 勝負に出て全国公募してよかったじゃないか。
……と、簡単には行かないんだよねえ。
知ってる人は知ってる通り、徳洲会と医師会は非常に仲が悪い。(^O^)
Wikipediaでは設立者で自由連合の徳田虎雄が「いったん自由民主党に入党したが、徳洲会と対立する日本医師会の反発で、3日で党を追われた」なんてエピソードが紹介されている。その後の方には「しかし、2006年には、虎雄の子である徳田毅が自由連合から自民党入りするなど、医師会との対立関係は変化を見せている」とあるが、まだまだ地方の医師会の反発は大きいようだ。
しかも奈良県は、徳洲会病院が1つもない県だ。蟻の一穴。医師会としては何としてでも阻止したいところだろう。
というわけで、見事に手の平が返った。
奈良県の医師会も、生駒市の医師会も、それまで新病院作れと何度も市に要請していたのに、「そんなもんいらん」と言い出した。
さらにいつの間にか、市内の病院から増床申請が出まくった。
運営主体を募集したのが2007年の11月。指定管理者に決定したのが1月。
その間の12月に、3つの病院から増床申請が出され、「市立病院」の申請と合わせると、割り当て可能なベッド数を余裕でオーバーしてしまうという事態になった。
その時点でベッドが70%しか埋まってないような病院まで増床申請してるんだよねえ。
医師会の動きはなかなか素早い。よっぽどイヤなんだな。(^O^)
で、2008年の1年間は医師会のイチャモンの1年になった。
増床申請が割り当て可能な数よりも多かったため、奈良県がそれぞれの病院の申請を審査することになったんだけども、意見を求められた医師会は「今頑張ってる病院を最優先すべきで、新たな病院なんて要りませんッ!」と言い切った。(^O^)
いやその……。既存の病院だけでは対応できないので早く新しい病院作らんかいッ!と言い続けていたのは君たちじゃないか。(^^;;
県には医療審議会というのがある。県の諮問機関?であって、病床数もここが答申を出して、それをもとに県が決定することになっている。普段なら割り当て可能なベッド数があって、それと同じ、あるいは下回るベッド数の申請について、申請に不備がなければそれを認める……てことをやってたわけだけども、今回はそれ以上の申請があったので、ちょっとシステムが変わった。
県が医療審議会とは別に審査会を組織し、そこが申請を審査してどこに何床割り当てるべきかの見解をまとめ、それを医療審議会に諮って答申してもらい、それをもとに県が決定するという、非常にややこしいこと(^O^)になった。まぁきっと医療審議会の顔を立てなきゃいけないってことなんだろうけども。で、実は医療審議会の会長は奈良県医師会の会長なんだよね。
というわけで8月の医療審議会はわけわからんことになった。県の審査会が出した見解(申請4病院のうち2病院がゼロ、阪奈中央病院に56、「市立病院」に210の病床を配分すべし)を無視して「市は地元医師会と協議するように」とだけ決めて、病床配分の決定を先延ばしにしちゃった。
そう言われたから生駒市は何度も医師会に協議を求めるけども、医師会は「計画の白紙撤回が協議の条件」とか無茶なことを言い出す。(^^; で、「生駒は病院が足りないなんてことはない。足りないとすれば産科2次救急と小児2次救急。産科2次救急は今は無理。でも小児2次救急は医師会が頑張るよ」てな意見書を出してくる。出来んから今まで新病院作れって言うとったんやないか。何今になって俄然やる気になってるフリをする。(゚Д゚)
で、協議が出来ないまま迎えた12月の医療審議会も、相変わらず県の審査会の見解は無視して「市は地元医師会と協議するように」とまた2月に先送り。
2月の医療審議会を前にして生駒市医師会が提出した提案書には、阪和中央病院に対して生駒市医師会、奈良県医師会、奈良県立医科大学が協力して小児2次救急体制を確立する、なんて書かれていた。……しかし奈良県立医科大学が「何それ? 聞いてないよ~」って。(^^;
で、先送りに先送りを重ねたあとの2月の医療審議会は、さすがに「答申」を出した。これがまた凄い。
「阪奈中央病院に56床を配分する。「市立病院」には病床の配分を認めない」
えっと、あの……残りの210床はないままで行くつもりですか? (^^;;;
さすがに無茶苦茶な答申(しつこいが、医療審議会の会長は奈良県医師会の会長)を受けて、奈良県はその日のうちに
「阪奈中央病院に56、「市立病院」に210の病床を配分する」
と発表した。
医療法第7条第1項、第4項には以下のような規定がある。
医療法第7条第1項、第4項
4 都道府県知事又は保健所を設置する市の市長若しくは特別区の区長は、前3項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が第21条及び第23条の規定に基づく厚生労働省令の定める要件に適合するときは、前2項の許可を与えなければならない。 |
つまり配分できる病床があるのに申請を無視するのは違法行為にあたるのであって、知事は義務を実行しただけ。
ところがこれ聞いて奈良県医師会は怒ったね。
「答申」が出てすぐに記者会見を開いてそれを覆す発表をするとは何事かと。そんなもん「結論ありき」で、医療審議会の存在を否定している!!!!! と、医療審議会会長(兼奈良県医師会会長)は怒りまくって、審議会を欠席して内容を知らない人まで巻き込んで7人が審議会の委員が辞めますと。しかも奈良県医師会が委員を派遣している県の他の協議会からも委員を引き揚げるぞゴルァ!!と、むしろ脅迫に近い。
ったく、どっちが「結論ありき」なんだよ。(^^;;;
県医療審議会:7委員辞任、会見で表明 /奈良
http://mainichi.jp/area/nara/news/20090311ddlk29040447000c.html
さすがに普通に見たらやっぱり医師会の言い分の方が無茶苦茶なわけで、それなりの地位も知性も備えたいいオトナが何故そういうバカなことをやらにゃいかんのかと考えたら、まぁやっぱり徳洲会だわな。よっぽどイヤなんだろうなあ。こうなるともうただのダダっ子だよ。
で、そうこうしているうちにとうとうこんな↓事件が起こってしまった。
<救急搬送>6施設に断られ1時間後に男性死亡 奈良・生駒 (毎日新聞)
奈良県生駒市で21日、意識を失って倒れた新聞販売店従業員の男性(62)が、県内の6医療機関に受け入れを断られて救急搬送できず、通報から約1時間後に大阪府大東市の病院に搬送されたが死亡したことが分かった。 生駒市消防本部によると、21日午後1時40分ごろ、新聞販売店から「男性が倒れた。意識がないが呼吸はある」と119番があった。救急隊が現場に到着後、心肺停止状態になったという。隊員は同市内の救命救急センターの指示で蘇生(そせい)措置をしながら、同センターや2次救急当番病院など生駒市や隣接する奈良市の5病院と救命救急センターに受け入れを要請したが、「満床」「処置困難」などの理由で断られた。 通報から約1時間後に大東市の病院に搬送されたが、約30分後に死亡が確認された。同販売店によると男性の死因は心不全で、心筋梗塞(こうそく)の病歴があったことを救急隊員には伝えていたという。生駒市消防本部は「搬送に時間がかかったことと死亡との因果関係は不明」としている。 |
動画はこれ。⇒FNN
真夜中じゃなくて真っ昼間だよ。以前、生駒市医師会は新病院に反対の理由として、
「生駒は病院が足りないなんてことはない。足りないとすれば産科2次救急と小児2次救急。産科2次救急は今は無理。でも小児2次救急は医師会が頑張るよ」
と言ってたわけだが。(結局産科2次救急はどうするつもりだ?)
ちなみに最終的に患者を受け入れた大東市(大阪府西部にある)の病院は徳洲会病院だ。普段もよく受け入れてくれていて、救急隊は6病院に断られた時点でもう奈良で病院を探すことを諦め、こちらに受け入れを要請したのだという。
「生駒は病院が足りないなんてことはない」って……。
いや実際、現場がいっぱいいっぱいであったことは想像に難くない。別に意地悪して受け入れ拒否したわけじゃあるまい。しかしそれってそのまんま放置していていい問題じゃないだろう。新病院の邪魔をしてまで放置すべき問題か?
いや別に私は生駒市民でもないので病院があってもなくても実益としては変わらないんだけども、それでもあえて長々とこの話を書こうと思ったのは、奈良県医師会会長の『言うこときかんのやったら辞めたるわ! へッ!』という態度と↑のニュースとのギャップに腹が立ったのと、もひとつダメ押しでこれ↓を見てしまったから。
生駒市新病院整備専門委員会
http://www.city.ikoma.lg.jp/kashitsu/04150/02/01.html
この委員会が例の、民間病院でもいいから当たってみようよって決めた委員会。医師会からも何人も参加している。
これの第8回(平成19年12月18日開催)委員会(⇒内容pdf)での話。
この回は11月にやった募集に応募してきたのが徳洲会だけだったことを受けて、応募者の徳洲会について話し合うことになっていた。で、徳洲会の話をするんだったら悪口ばっかりになるからこの回は非公開にしましょうよ、いや公開にすべきでしょう、なんてつまらん議論で全体の1/3の時間が費やされてしまう。そういう回。
この中の、生駒地区医師会副会長のこの言葉がね、もう、何とも腹が立って。
徳洲会病院は、先ほどから発言がありますように、いい話は聞きません。ただ市民、患者さんに対しては非常に手厚い治療をしています。それぐらいがメリットです。例えば、東村山市に800床の病院を作ろうとしてそれを次の市長が取り消した時の訴訟等、現在訴訟も6件抱えています。…… |
もうね、お前ら何のためにおるのかと。
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- 村雨
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怒りの鉄拳 /SO WHAT?
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