四半世紀前の関西グルメ案内本を読む3/3

前回からの続き


『ぴあ まんぷく図鑑’94 関西メニュー別うまい店案内』

 ここからは箇条書き。

  • 美々卯のうどんすきは昭和3年に登場。「当時、1人前1円50銭。今の1万円くらい」(【鍋】「うどん鍋」の解説文)
  • 現在主流のもつ鍋は、元は九州・博多で食べられていたもので、在日韓国の人々が食べていたものがもつ鍋も元祖であったといわれる。その鍋をお洒落な雰囲気にして東京で売り出したところ、オヤジ化したギャルに大ウケ。また弾けたバブルの爆風によって“安くてウマイ”もつ鍋は瞬く間に広がったというわけだ」。「オヤジ化したギャル」、「バブルの爆風」というキーワードが時代を感じさせるなあ。
  • かにすきのルーツは比較的新しく昭和30年代。とれたてのカニをすき鍋仕立てで出したのが始まりといわれる」(【鍋】「かに・えびすき」)。そして神戸・山手のホテル全但の紹介文に「昭和28年、関西でカニすきを始めた店として知られる」とある。日本語が少し変だが、おそらく「関西で初めて」ということなのだろう。そして大阪・難波のかに道楽本店の紹介文には「看板の巨大なカニは大阪のランドマーク。昭和35年大阪で最初にカニすきを始めたのがここ」とある。
  • 煮すぎないよう気をつけて、サッと(しゃぶ)2」(【鍋】「すき焼・しゃぶしゃぶ」)。「(しゃぶ)2」ってのが、あー、いかにも時代だ。(^O^)
  • 【鍋】「すき焼・しゃぶしゃぶ」にある大阪・新地の永楽町 スエヒロ本店の紹介文。「元祖を名乗る。「しゃぶしゃぶ」はこの店の登録商標だ」。なんだってー?
  • ハンバーグのルーツは、13世紀頃のソ連に遡る」(【洋】「ハンバーグ」)。なかなか衝撃的なフレーズだな。(^O^)
  • 【串】「やきとり」解説文にある「ガード下の屋台で1杯……やきとりというと浮かぶのはそんな光景。それもそのはずでやきとりのルーツは戦後の焼け跡闇市の屋台。戦前にやきとりがなかった訳ではないが、そのほとんどは野鳥を捕って調理した「鳥舎料理」を基とする野鳥焼だったのだ。戦後、肥育ブロイラーが入ってきて食肉用鶏の飼育・流通が発達。それに伴い安価な鶏肉が供給され、やきとりは庶民の味として定着した……
     このあたりはちょっと眉唾じゃないかと思う。ただ、まだ私はそれの真偽を問えるほどの知見は持っていないけども。
  • 【丼】「まむし」の解説文や各店舗の紹介文のどこを見ても[輸入|国産]という話は一切出てこない。まだ中国などへの技術移転も本格的ではなかったということか。「養殖」という文字は1ヶ所だけ出てくるが、紹介文での一番の関心は[関西風|関東風]のどちらなのかということ。それが25年後、天然物どころか養殖物まで希少となり、輸入ものに席巻され、そして鰻という種そのものが絶滅の危機に陥る(にもかかわらず日本人は鰻を食い続ける)なんてこと、当時の人は思いもよらなかっただろう。
  • 【煮】の解説文にこんなことが書かれている。
    「大阪の食い倒れ」「江戸の穿うがつき倒れ」とは東西のライフスタイルを代表する昔ながらの名言
     正直、これは初耳なのだが、「江戸の穿うがつき倒れ」とはどういうことを指すのだろう? ググッても全然出てこない。火事が多かったのでいつも土木工事をやっていたとか、そういうことだろうか。
    【追記】どうやらこれは、「江戸の穿き倒れ」のようだ。わざわざ間違ったルビを打ったのだから、かなりマヌケな話。
  • 【焼】「たこ焼」を見て驚くのは、かなり多くの店が今でも残っているということ。ちゃんとした確証はまだないが、1食あたりの単価が低いジャンルの店の方が長続きしているように思う。
     まあ、例えばラーメン本のように単一メニューの本であれば「目新しさ」という要素も入ってくるので新店舗も多く紹介するだろうが、本書のようなものだと既に定評のある(≒経営的に安定している)店が掲載されるので、全体的に25年後の今でもまだ残っている確率は高いのだとは思う。
  • 【麵】「うどん」を見ると、まだ大阪うどんが元気だった時代を感じさせる。22店紹介されているが、この中に讃岐うどんは3店舗。その後の讃岐うどんブームを経て大阪うどんの影が薄くなってしまった現在ではこういうわけにはいかないだろう。この25年で、麺は「コシ」だと言われ、出汁はグラグラとアッツアツでないといけないという価値観が広がってしまった。
    #何度か書いたが、大阪うどんが熱いのはゆでたての麺であってダシではない。昆布中心のダシをグラグラと煮え立たせてはいけない。そんなに熱くないから大阪うどんのダシはゴクゴクと飲み干せるのだ。
  • 【麵】「そば」を見ると、十割を売りにしている店はない。神戸・三宮の堂賀の紹介文に「つなぎが2割、そば粉8割のいわゆる二八そばが手打ちの限界といわれる中、ここではつなぎ1割、そば粉9割という快挙をやってのける」という既述がある。この後、十割で麺を作る技術(製粉やら何やら)が開発されたのか、関西はそばに関してはこんなものだったのか。まあ私は十割のそばがいいとは思わないのだけど。
  • 【肉】「焼肉」の解説には、「焼肉の本場といえばやはり朝鮮。牛の赤身をタレに漬けて焼くプルコギ、アバラ肉の網焼きカルビ・クイ、赤身の多い肉を塩焼きするソグム・クイの3種類があり、各々専門店で食べさせる。一方、大阪で焼肉の原型といえばホルモン焼き。昔は捨てていた内臓肉。捨てるもの=ほおるもん、から付いた名前とか。戦後の食糧不足で、日本人はそれまで食べなかった内臓を食べ始めた。食べ方を熟知していた在日の朝鮮・韓国の人たちがいたからこそ、日本式の焼肉が生まれたのだ」とある。これが「偽史」であることは以前、その論証をした書籍で紹介した(「積ん読解消運動(5)『焼肉の文化史』『焼肉の誕生』佐々木道雄」)。
     1970年代に登場した「ホルモン=ほうるもん説」が25年前に普通に受け入れられていたことがわかる。
  • 【焼】「明石焼」の見開きページは、見た途端に笑ってしまった。いや、全然笑うところじゃないのだけど、なんというか、この無愛想さというかインスタ映えしなさそうなというか……。(^O^)


    しかしやっぱり、明石焼は木のゲタで出すのが基本やね。
  • この本が編集されたと思われる93年、日本では大きな事件があった。「米不足」だ。しかしこの本にはそれに対する記述はない。おそらくギリギリ早かったのだろう。これの編集がもしあと半年遅ければ何らかの言及があったに違いない。
  • そして1年半後の1995年1月17日には阪神大震災が発生する。確かめてはいないが、ここで紹介されている神戸の店のいくらかは地震によってなくなってしまったと思う。25年も前の本だと、そんな分断も抱えることになる。
全3回 おわり

突然食いたくなったものリスト:

  • 花くじらのロールキャベツ

本日のBGM:
You’d Be So Nice to Come Home To /Art Pepper




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