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『ラーメン大好き小泉さん』新春SPと高井田ラーメン

 去年の秋、元ももいろクローバーの早見あかりの連続ドラマ初主演作となるラーメンドラマ『ラーメン大好き小泉さん』が放映された(全4回)。
(原作は同名のマンガで、読んでみたら初めの方に天下一品喜連瓜破店のハンバーガーの話が出てきて笑った。(^O^) )
 
 たった4回の放送しかなく、「え、打ち切りなの?」と思ったけど、あれは打ち切りではなくもともとそれだけの予定だったそうだ。
 
 人気がなくて終わったのではない証拠に、今年の正月、スペシャル番組が放送された。
 それが『ラーメン大好き小泉さん2016新春SP』。
 
 ラーメンが主役の番組ということ以上にあかりんが出るということで、これは見ないといけないと。(^O^)
 
 というわけで見たわけだけども、ここでちょっと引っかかることがあった。
 それを書いておこうと思う。


 『ラーメン大好き小泉さん』は基本的に東京の店ばかりが紹介されるのだけども、たまに地方のラーメンについても言及がある(原作では小泉さんは地方にラーメン遠征に行ったりもする)。
 
 で、今回の新春SPでは大阪のラーメンについてこんな話が出てきた。
 

大阪のラーメンは今、確実にキているからです。例えば大阪には濃口醤油と加水率高めのストレート太麺を合わせた高井田系というジャンルが存在します。そしてその高井田系の醤油からさらに発展した大阪ブラックは特に私のお気に入りなんです。

 


高井田ラーメン

 ちなみにこのシーンは(シチュエーションはずいぶん違うが)原作ではこう描かれている。


原作第3巻

 ここに引っかかった。
 といっても、本当に今、大阪のラーメンがキてるのか!?なんていう問題じゃないよ。
 引っかかったのは、高井田ラーメンの説明。
 
 以前書いたことにも重なるが、ここで高井田ラーメン・高井田系ラーメンはどういうものか、とりあえず書いておこう。
 
 高井田系ラーメン(または布施系ラーメン)は、東大阪市の地下鉄高井田駅(JR高井田中央駅)から近鉄布施駅近辺に多く分布するラーメンで、昭和20年代創業の住吉光洋軒が有名だ。生野の麺屋7.5Hz(旧店名「麺屋」)は2000年代にチェーン展開し、今でも大阪市内に数店舗と東京新橋店を構えている。公式サイトによるとこの3月には沖縄店もオープンするそうだ。
 
 高井田系ラーメンはある意味、堂々とした大阪の「ご当地ラーメン」なのだが、分布範囲が狭く知名度も低いためか、よくある「大阪のご当地ラーメンは?/大阪にご当地ラーメンはあるのか?」という議論ではことごとく無視されている(それはまさにこの原作マンガでも「先程ご当地麺は無いと仰いましたが」と書かれているとおり。/例えば以前、このエントリなどでその話をしている。/私自身は大阪のご当地ラーメンはこの高井田系と、金龍に代表される、いわゆる「関西ライト豚骨」だと思っている)。
 
 高井田系ラーメンの特徴は、醤油をお湯で薄めただけか!?とツッコミを入れたくなるような(さすがにそんなことはないよ)濃い醤油味と、加水率低めの極太麺。それにネギ、チャーシュー、メンマというシンプルな構成。シンプルではあるが、これらのどれが欠けてもいけない。


高井田系ラーメン
住吉、光洋軒のいい写真が見つからなかったので、麺屋7.5Hzのもの。


かなりの極太麺
住吉麺屋7.5Hz榮大號の12番丸麺を使っている

 極太麺なのに低加水なものだから、茹で時間が10分ほどかかる。
 この茹で時間だから客回転は悪く、ビジネス街のランチには向かないし、都心の家賃の高い立地にも向かないだろう。片田舎にあるべきラーメンなのだ。
 味は素朴で、そのシンプルさからは「ラーメン(中華そば)ってこんなものだったでしょ」という潔さすら感じられる。
(もし食べたことがない人で一度食べてみようと思う人には、「中華そば」という一番シンプルなメニューをおすすめする、チャーシューメンや大盛りなどは丼のバランスを崩すだけなのでまずはデフォルトを)
 
 ……ここで注意深い人は気がついたと思う。
 『ラーメン大好き小泉さん』の「濃口醤油と加水率高めのストレート太麺を合わせた高井田系」という説明は、事実と正反対なのだ。高井田ラーメンの麺の加水率は低い。
 
 ではなぜそんな説明になったか。
 
 この謎は、その説明と一緒に紹介されている店を見れば解ける。


再掲

 テレビでは「高井田系」として麺屋 丈六のラーメンが紹介されている。
 また原作マンガでは小泉さんは大阪まで行ってラーメンを食べるのだが、店名こそ出てこないものの、描かれている店はやはり丈六だ。店主の丈六さんも1コマ登場している。
 
 ここで少し、丈六の説明が必要になる。
 
 丈六は旧名を○丈まるじょうといい、その前は麺哲 天保山といった。
 名前のとおり、この店は以前は麺哲の天保山店だったわけだ。
 天保山の海遊館(水族館)の横にある、なにわ食いしんぼ横丁の中に入っていた。
 
 なにわ食いしんぼ横丁はその名のとおり大阪の名物店を集めた飲食店街で、(ありがちな)昭和風の町並みを演出したスペースになっている。今でもたこ焼きの会津屋やオムライスの北極星、お好み焼きのぼてぢゅうといった大阪の有名店が入っており、麺哲も大阪のラーメンの名店として呼ばれ、ここに店を出した。
 
 この麺哲 天保山が名前を変えて○丈になり、それが裏難波(現地)に移転してそのまま○丈として営業し、それが去年(2015年)3月1日から丈六となった。今では麺哲からは完全に独立している。
 
 天保山時代の○丈では既に、今の丈六のメニューである中華そば(東大阪高井田風)丈六そば(和歌山風中華そば)(現和歌山中華そば)が出されていた。(麺哲時代はあまり記憶にないが、店名を変えて○丈になった時には出していた。あるいは○丈になるのを期に出したメニューだったかもしれない)
 
 それぞれ東大阪、和歌山のご当地ラーメンである高井田ラーメン、和歌山ラーメンをイメージしたものだ。
 
 ただ、いずれもそれらとは使われている麺がかなり違う。
 麺哲の支店という出自らしく、この店の麺は麺哲特有の真空ミキサーを使った多加水麺だし、高井田風ラーメンに使われている麺は極太麺ではなく、やや太め程度の麺だ。
 
 でもね、高井田ラーメンも和歌山ラーメンも、こんなにいい麺じゃないんだよ。(^O^)
 
 確かにラーメンとしての完成度は高くおいしいのだが、じゃあこれが高井田ラーメン、和歌山ラーメンですかといわれれば、やっぱりそれは違う。
 
 それは出す側も認識していて、だからこそこれらのメニューは中華そば(東大阪高井田○丈そば(和歌山中華そば)だったわけだ。
 
 天保山は大阪の観光地で、関西以外からの観光客も多い。
 
 そういう場所で、関西以外ではあまり知られていない高井田ラーメン、和歌山ラーメンを完成度の高い形で紹介するというのはそれなりの意味がある。東大阪や和歌山にまで足を伸ばす観光客がさほど多いとも思えないから。それに、そもそも高井田ラーメン、和歌山ラーメンの存在を知らないという可能性も高い。
 ただ、これらがそのまんま高井田ラーメン、和歌山ラーメンだと誤解されるおそれもあるわけで、なかなか危なっかしいことだと思っていた。だって、高井田に行っても和歌山に行っても、こういうラーメンはないからね。
 
 で、実際、『ラーメン大好き小泉さん』の原作者は、丈六中華そば(東大阪高井田を見て、高井田ラーメンとはこうだと思ってしまったということのようだ。
 
 丈六○丈時代から変わらぬうまいラーメン&つけ麺を提供している。
 
 ただ、うーん……やっぱり危惧していたことが起こってしまったねえ。
 

大阪のラーメンは今、確実にキているからです。例えば大阪には濃口醤油と加水率高めのストレート太麺を合わせた高井田系というジャンルが存在します。そしてその高井田系の醤油からさらに発展した大阪ブラックは特に私のお気に入りなんです。

 
 こういう言説が全国メディアに乗るってのは、ほんとに残念なことだ。
 
 低加水の極太麺はまさに高井田ラーメンを特徴づける基本的なパーツだ。これを外して高井田ラーメンとは呼んでいいものか。
 
 うーん。
 ……実はこれは確かに難しい話でもある。というのも、前述のようにこの麺はとにかく茹で時間が長い。ラーメン店のオペレーションとしては厄介なものだ。高井田系ラーメンの新店は実はじわじわと増えてきているが、新店でこの麺を扱うのはかなり勇気が要る。なので原型からアレンジして加水率を上げたり麺を細くしたり(それでも太麺だけども)といった工夫が各店で見られている。つまり「高井田系ラーメン」のバリエーションは確かに広がっている。
 そう考えれば今ではもう、多加水のやや太麺あたりの麺を使ったものでも「高井田系」と言うことができるのかもしれない。
 
 ただ、ラーメンを扱った作品の中でわざわざ大阪のラーメン事情として紹介するのなら、やっぱり王道の高井田ラーメンを紹介すべきだった。少なくとも一般的な高井田ラーメンの説明として「濃口醤油と加水率高めのストレート太麺を合わせた高井田系というジャンル」という説明は、やはり間違っている。
 
 原作の描写から見て作者は大阪に取材に来ているはずなんだ。ということはガイドした人もいるはず。その人がどうしてそれをちゃんと伝えなかったのか。
 
 ラーメンがついでに出てくるんじゃなくてラーメンが主役の番組(マンガ)なんだから、描く側・制作する側ももうちょっとちゃんと調べてくれたらありがたいなあ。(まあ、仕方ない部分は多いと思いながら書いてるんだけどね)
 
 いや、モノノフ(旧青推し)としてはあかりん主演のドラマだというだけで嬉しいんだよ。
 
 ま、違うよという話。

 私自身は、天保山を離れて裏難波に移転した時点で「高井田風」という名前は外すべきだったと思っている。そういう名前である必要がないから。それは当時から言っていた。
 
○丈@天保山
○丈@千日前
 
 ……大きなお世話だけどな。(^^;

 念のために書いておくけど、丈六中華そば(東大阪高井田風)はうまいよ。

突然食いたくなったものリスト:

  • サーターアンダギー

本日のBGM:
ラーメン大好き小泉さんの唄 /こぶしファクトリー





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