前回に引き続いてテレビドラマ『ラーメン大好き小泉さん』の話。
ラヲタとしてはこの番組、もうちょっと語りたいことがある。
ついでにそれも書いておこう。
今回もいつもの「すする」云々の話なので、面倒な人はこの先は読まなくて大丈夫。
『ラーメン大好き小泉さん』のレギュラー放送時、一番残念だったのは麺のすすり方がみんな下手だということ。
「ラーメンマニア」として出てくる3人のおじさんたち(尾道=小野ゆたか、荻窪=田中英樹、喜多方=村松利史)は、尾道だけはかなり上手いように見えた(すすっているところは少ししか映ってないからわかりにくかったけど)けど、荻窪はレンゲの上に麺を載せて食べるし、喜多方はすすること自体できないんじゃないかという感じで口に入れてすぐに残りの麺を噛み切っちゃう。(>_<) いや、もちろん「マニア」ならぬ一般人(^O^)はどんな食べ方をしてもいいんだけど、「かなりのラーメンマニア」の役どころなんだから、きれいにすするよう演出家は指導すべきじゃないかと思う。(マニア独特の、麺の出来などを確かめるために変則的な食べ方をするというのはあり得る話ではある。でももしそうなら説明が入らないとさっぱりだね)
主演のあかりんも最初、そのへんはダメだった。
番組の公式サイトにあるインタビューで、あかりんはこう語っている。
Q.小泉さんを演じる難しさ、小泉さんならではの大変さはありますか?
通常時のスンとした感じの役作りはそれほど苦労はありませんでしたが、ラーメンを食べる時の”美味しそう”に”ガツガツと”というのは難しいなと思いました。とても有名なお店で、みなさんお忙しい中で撮影にご協力いただいているので、お芝居をしつつそのラーメンの美味しさをきちんと伝えなければいけないプレッシャーもありました。実は、これまでラーメンをすすったことがなく、すすれなかったんです。豪快に麺をすするのが小泉さん流の食べ方なので、事前にすごく練習をしました。 Q.練習の成果は発揮できていますか? おかげさまで無事にすすれるようになりました(笑)。しかも、撮影でかなりの量のラーメンを食べるので、それにつれてどんどんすすり方も上手になってきたなと思います。最初は本当に苦戦しました…。 Q.ちなみに、これまではどのように食べていたんですか? れんげに麺を入れて口に運んで食べてました。やったことがないと、すするのって本当に難しいんですよ。一生懸命に吸うんですけど、入ってくるのは空気ばかりで肝心の麺が入ってこない。今でこそどんな量でもすすれるようになりましたが、最初の方は決まった量しかすすれないので、そこから始めて徐々に量を調整していった感じです。すすれるようになって感じたのは、これほどラーメンを美味しく食べたことはなかったなと。みんながラーメンをすすって食べるのには理由があったんだと、素敵なラーメンの食べ方を知ることができました(笑)。 |
このインタビューがいつ行われたか判らないが、確かにレギュラー放送の時はすすれるようになっていた。
ただ、やはり最初はそれほど上手くはなかった。ただ「ズズッ」とやれるというだけ。(この程度の「ラヲタ」もいくらでもいるけどね)
撮影前、あかりんはこの「ズズッ」とやること自体できなかったんだろう。
それができたことが、このインタビューで彼女が言っている「すすれるようになりました」だ。しかしすするにも上手下手がある。
このドラマに出演するにあたって「すすれる」ようになったあかりんは、ラーメンをおいしそうに食べる役作りをいろいろ考えたようだ。
そして「ガツガツと」のところで辿り着いたのが、「一度にたくさん頬張る」だったのだろう。
レギュラードラマ(といっても4回しかやってないけど)の頃、彼女は大量の麺を一度に箸で持ち上げ、そのまんま口に運んでズズッ、ズズッとやり、口に入りきらない麺を噛み切っていた。ズズッ、ズズッと一息でいけないのはさほど珍しいことではないけども、これは最初に麺を口にたくさん入れすぎてるからというのがある。こんなふうに「大量の麺を一度に口に入れる」ことが「“美味しそう”に”ガツガツと”」だと思っていたんだろう。
大量に麺を口に運び、口に入りきらない麺を噛み切る
しかし麺というのは基本的に一気にすすり上げるもので、途中で噛み切るものじゃない。もちろん麺がやたら長かったり、あるいはラーメンの場合はスープの中で絡まってることもあるし湯気でむせてしまったり熱かったりで噛み切らざるを得ないことも多い(そのへんがつけ麺と違うところだ)。しかし初めから入りきらない量の麺を口に運んでおいて、結局麺が入りきらずに噛み切るなんてのは、麺の味わい方としてはあんまりだ。だいたい、噛み切られた短い麺はどうする。
#もちろん制服だから豪快にすすり上げられないということはわかる。
あかりんはレギュラー放送の頃(例えば最初に行った金色不如帰)はこんな食べ方をしていた(それでも1話より4話の方が上手くなってる)。
他の出演者も似たようなもので、それが残念だなあ……と。
そう思っていたんだけども。
それが、新春スペシャルの時にはあかりんはすすり方が上手くなっていた。
いや、正確には、新春スペシャルの最初から最後までの間で、すすり方が飛躍的に上達している。
番組最初の与ろゐ屋でのすすり方は上記のように口に入りきらない量の麺を口に運んで噛み切っていたのに、最後の萬福で食べた時には同じ番組内だと思えないほど上手くなっている。
ちゃんと口に入りきるだけの量の麺をつまんで、ズズズズズッと麺を噛み切ることなく最後まですすり上げている。すする速度も速い。すすり上げる時に麺を箸でサポートするのは、汁がはねないようにするには仕方ない。一息でいけないのも、まあそこまで求めることもないだろう(ズズズズズズズッと一息ですすり込めれば一番サマになるけれど、これも汁が飛び散るから)。
与ろゐ屋ではやはりたくさんの麺を口に運び、口に入りきらない麺を噛み切ってる。ただ2口目以降はいい感じになってるので、このあたりがちょうど過渡期かも
番組最後の萬福では、口に入りきるだけの麺を3すすりほどで全部口に収めている。最初に口に入れる麺の量がそんなに多くないのでズズッとすすり上げることができて、麺のスピードも速い
この短期間でここまで上手にすすれるようになるとは。
素晴らしい。
やっぱり意識するのとしないのとでは全然違うんだなあ。
この変化が誰かのアドバイスなのかは判らない。ただ、もし演出家やアドバイザーからのものなのであれば、同じスペシャルの中で「ラーメンマニア」3人組があんな食べ方をするのは解せない(一番うまいと思われる尾道さんが麺をすするシーンはなかった)。だからきっと、これはあかりんが個人的に気づいたか番組とは関係のない誰かから教えてもらったのだろう。
マンガでは麺のすすり方まではわからない。
つまり「すすり方」の描写はドラマ化する時に初めて出てくる問題だ(もちろん原作にはすすりきれずに途中で麺を噛み切るようなシーンはない)。
実写化にあたっては、本来ならちゃんとしたアドバイザーをつけなきゃいけないはずなんだよなあ。あるいはその分演出家が勉強するか。
こんな番組だから、ラーメン全般にわたって詳しい人を据えていると思うんだが。
#少し調べてみると、どうやらこの番組にはフードジャーナリストのはんつ遠藤氏が関わっているようだ。まあ彼が演出しているわけじゃないけれど、どうなのかなあ、このへん。
##はんつ遠藤はレギュラー第1話と新春SPでちょっとだけ出演してる。脚本の久馬歩(ザ・プラン9)もレギュラー第3話で発見した。
というわけで、残念に思う点もあったけれど、この番組を通じてあかりんの成長を見届けることができた。
結果、素晴らしい。(^O^)
またすする話をしたから、もう少しだけ雑談を。
これも何度もしてる話だけど、また書いておく。
同じことを書くだけで判ってる人には何の新しい情報もないので、ここまで読んでしまった人も読み飛ばしていただいていいよ。
同じ「すする」といっても、ラーメンとつけ麺ではちょっと変わってくる。
つけ麺の方がすすりやすくて、ラーメンは少し難しい。
つけ麺の場合は盛られている麺をつけ汁の器に移す時に、口に入るだけの量の麺をつまみ上げることができる。ところがラーメンはスープの中に麺が絡まって入っているので、麺を持ち上げてもスープの中で麺が絡んで適量を引っ張り出すことが難しいことがある。そうなると麺を噛み切らざるをえない。
つけ麺は水で締めているので湯気でむせることもない。
ラーメンはすすり込む時にスープが飛び散ってしまうので、どうしても箸でガイドするような形になるし、すするのを躊躇することもある。
というわけで、麺を豪快にすすり上げるにはつけ麺の方が向いている。
このエントリで(いや、他のエントリでも)しつこく書いたが、すすり方にも上手下手がある。
で、この上手下手は、つけ麺だとはっきりと出る。
麺のすすり方が上手くなると、麺が口に飛び込むスピードが速くなる。
上記の『ラーメン大好き小泉さん』のあかりんも、第1話最初の金色不如帰で食べた頃に比べて新春スペシャル最後の萬福での食べ方の方が、すすり上げる麺のスピードが格段に速くなっている。
このスピードは実はかなり重要で、つけ汁の持ち上げに大きく影響する。
麺を勢いよくすすり上げると、つけ汁は麺に引っ張り上げられてたくさん口に流れ込む。
逆にすすれなかったり下手でゆっくりしかすすれないと、つけ汁は口に入るまでに落ちてしまう。
これはざる蕎麦だともっとわかりやすい。
噺のマクラに、江戸っ子は蕎麦を食べるのにツユに3割くらいしか麺をつけないのが粋だと言われてて、見栄っ張りの江戸っ子は皆そうしたのだけども、その江戸っ子が臨終の際に「一度でいいからたっぷりソバにツユをつけて喰ってみたかった」と遺言した、なんて話がある。
この話って、江戸っ子の見栄だとかいろいろあるんだろうけど、私はきっと、当時からすするのが上手い人と下手な人がいたんだと思う。
たいていの人は麺のすすり方なんて意識しないから下手なままの人もかなり多かったんだろう(もちろん自然にできる人もいる)。少なくとも私の観察範囲ではそうだ。
麺をすするのが上手い人にとってみれば、「たっぷりソバにツユをつけて」食ったりすると麺と一緒にツユが大量に口に入ってきてしまい、しょっぱくて仕方がない。だからツユを少しだけつける。つまりそのつけ方は、すするのが上手い人にとってはきわめて実用的なやり方なわけだ。
ところが「これが粋」なんてふうに規定されてしまうと、すすり方が下手な人までこの食べ方をしなきゃいけなくなる。下手な人がそんな食べ方(ズッ、ズッ、ズッ、ズッ……)をすると麺が口に辿り着くまでにツユが落ちてしまって、味がかなり薄くなる。そんな食べ方ならツユに蕎麦をぼちゃんとつけて食べるくらいでないとツユの味がしないだろう。それを見栄張ってすすれる人と同じように少しだけつけてたんだとしたら、確かにそんな遺言も残したくなるというもんだ。自分がすするのが下手なことに気づけていたら、意識してすすり方を変えることもできただろうに。
つけ麺もそうで、濃厚なんちゃらとかつけ汁の持ち上げがどうとかいって隆盛を誇っているドロドロのつけ汁でズズーッっと一気にすすり上げたら、口の中はつけ汁だらけになってしまう。どっぷりつけようものなら悲劇だ。
「濃厚豚骨魚介」が現在のつけ麺の大半なのは、そのまんま、麺を上手にすすれる人の方が少ないからなんだろう(私はいろんな店でつけ麺を食べてみて、店主でさえ上手にすすれない人がたくさんいると確信している)。
江戸っ子がすすり方の上手下手の存在に気づかずに悲劇(^O^)を生んだように、おそらく今、この時も、すするのが下手な(だけど自分ではそうだと気づいていない)店主がドロドロのつけ汁のつけ麺を作り、すするのが下手な(だけど自分ではそうだと気づいていない)「ラヲタ」が、ざる蕎麦のツユのようなサラサラのつけ汁の店を「つけ汁の持ち上げが悪い」とブログに書く悲劇が生まれている。
……とはいえ、商売としては数が多い方にシフトするのは仕方のないことだ。
ただ、この「違い」があるということ自体は、少なくとも「ラヲタ」は知っておくべきだ。
[すする|すすれない][すする|すすらない][すするのが上手い|下手]というのは、それ自体なかなか意識されることがない。どうであっても麺は食えるので。だからこそあの江戸っ子の小咄のようなものができる。
例えばググってる時に見つけたこの知恵袋みたいな話は世の中にはたくさんある。
・食事のマナー、麺類をすする音 – 教えて!Goo
こういう何度も何度も繰り返される話も、実はかなりの部分がその違いがあるってこと自体意識されてないからこそ生まれるのだと思う。
上手下手以前にまったくすすれないと、麺の食べ方はこんな感じになる。
これは経験上の話だけど、(右利きの場合)つけ汁の器をざる蕎麦を食べる時のように左手で持つと自然にすすりやすくなるようだ。
ただ、つけ麺のつけ汁の器は大きかったり熱かったりするので、なかなか手で持つのが難しいんだよなあ。
突然食いたくなったものリスト:
- 純情屋のつけ麺
- 麺野郎のつけ麺
本日のBGM:
We Are Born /ももいろクローバーZ
4 個のコメント
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DATE: 02/25/2016 06:36:58 PM
私の場合、朝・昼は、ここ3年以上腹3分目の食事で過ごし、昼食は、ほぼ蕎麦、ウドンで済まし、現在の現場事務所では、外に食事に行くのが面倒なので、近くのスーパーでチンして戻す蕎麦、ウドン(or きしめん)をどんぶりに入れ、洗面所で水で切り、ねぎ等も入れず、つゆ(濃度100%)を掛けて 澄ましています。(一食はたぶん120円以下か?と思います。)
(日曜は、時にカップ麺を食べています。)
家でスパゲティを食する時も、つい 蕎麦等のすすり方で食べてしまい、息子から 「まさか、外でもその食べ方なのか?」と揶揄されています。
何故、外人がすする食べ方ができないのか?日本人だけの特殊能力なのか?は分かりませんが、
日本人が海外に行っても、ズルズルと音を立て すする麺の食し方は、日本の伝統として、残して欲しいものです・・・。
Author
DATE: 03/09/2016 10:28:33 PM
こんにちは。
日本の麺類はすすっておいしいように進化してきたので、すすって食べるとおいしいのです。
それに対してスパゲッティは、(もともとは手で持ち上げて口に入れていたそうですが)フォークでまとめて口に運んで噛んで食べて一番おいしいように進化してきたものなので、そう食べるべきだと思います。
マナー云々は別として、そういう、食べ物の奥の文化は尊重するべきであるし、^「そういうふうに食べるように作られている」ことは知っておくべきかと思います。
ラーメン大好き小泉さんのアニメの方を見て検索してたどりつきました。
アニメでは上手にすすりきって食べているので、気持ちのよい食べ方です。
(すする音は実写とは比べ物にならず、しょうがないですが)
自分も噛み切る食べ方に抵抗があって、おっしゃっている意見が合致して思わず笑ってしまいました。
上手に作ってくれたラーメンを上手にすすって食べると、最後のすすりで麺がスカッとキレイになくなるというのも
気持ちのよいところです。
みんなもこういうふうに食べてくれると嬉しいなーと思って投稿しました。
Author
zunさん こんにちは。
コメントありがとうございます。m(_ _)m
アニメの方の小泉さんはきれいな啜り方をしてますね。(^O^) とてもいいです。
まあアニメでわざわざダメな啜り方をする理由もないですし、そもそも描く人に「下手な啜り方」という認識があるかどうかもわからないのですが。
日本の麺は心地よくすする快感も目指して作られているので、すすって食べるのがやはりよいと思います。噛み切っちゃうと全然すすれませんし、短い麺をそのまま口に放り込むだけだと、麺である理由はないですよね。
他人の食べ方にケチをつけるつもりはないのですが、きれいにすすって食べればよりいっそうおいしいし、すすらないで食べてその麺をおいしいまずいと評価するのはあまりに麺と店が気の毒だと思います。
勝手な好みなんですが、立ち食いそばなんかで豪快に啜ってさっと去って行く女性とか、本当にカッコいいと思います。(^O^)