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化学調味料関係のとりあえずのメモ(その10)

 先日来、『ラーメン発見伝』というマンガを読んでる。


 そのまんま、ラーメンをテーマに据えたウンチクマンガ。
 名前は聞いたことがあったのだけども、読んだことがなかった。
 全部で26巻あるらしいが、今は11巻の途中。
 「なるほどなあ」と思うところもあれば「いやそれはちょっと違うんじゃない?」というところもあって興味深い。
 ストーリーの構造は『美味しんぼ』そのまんまなのがこれまたかわいらしい。(^^; まあこういうマンガはストーリーそのものは付け足しだから(その象徴が最後のコマの様式美)、そういうものなんだろうね。
 
 いろいろ感想とか突っ込みたいところとかもあったりするんだけども、今回はその中の1つを。
 
 これ↓は『ラーメン発見伝 11』からの1コマ。


「こ、このイノシン酸、グルタミン酸、コハク酸、グアニル酸が繰り広げる凄まじい旨味の相乗作用はどうだァ!?」

 これはあるラーメン評論家が、あるラーメンについて感想を述べたところ。
 
 同じような表現をしている箇所は、この本のこれ以前の話でも見た記憶がある。
 あるいは私は以前、ラーメン店主があるラーメンを評して「グルタミン酸とイノシン酸のうま味が爆発してますよ!」なんてコメントをしているのを見たことがある。
 
 これらのコメントが、どうにも引っかかる。
 どうしてこういうことが平気で言えてしまうのだろう、と。
 
 恐らくこれらの人たちが言いたいのは、材料に含まれているうま味物質の相乗効果によって、うま味が非常に強く感じられる、ということなのだと思う。
 グルタミン酸は昆布、イノシン酸は鰹節や豚骨、コハク酸は貝類、グアニル酸はシイタケに多く含まれるうま味物質だ。グルタミン酸はアミノ酸系、イノシン酸、グアニル酸は核酸系、コハク酸は有機酸系のうま味物質で、アミノ酸系と核酸系のうま味物質は混合することで単独で存在するよりもずっと強いうま味を呈する。これを「うま味の相乗効果」といって、ここで言いたいのはその話なのだと思う。
 
 うん。
 まあ、言いたいことはわかる。
 
 しかし、だったら自分が舌で感じたように「うま味が非常に強く感じられる」という具合に言えばいいのであって、それをわざわざ「イノシン酸、グルタミン酸、コハク酸、グアニル酸」だとか「グルタミン酸とイノシン酸」と特定する必要などない。
 「うま味」自体は感覚的にわかったとしても、それがどの物質由来のものなのかはあくまでも後付けの知識に過ぎないのだから。
 もちろん、その「うまさ」に対して解析的に、「この爆発的なうまさはイノシン酸、グルタミン酸、コハク酸、グアニル酸の相乗効果によるところが大きいらしい」とったコメントならまた別の意味を持つし、いいのだろうと思う。しかし味の直接の感想として上記のような言い方をしてしまえば、じゃあ例えばアスパラギン酸は関係ないの?なんてことにもなる。
 これは昆布の話だが、乾燥昆布に含まれている全遊離アミノ酸のうち、うま味を呈する物質は60%以上を占めるグルタミン酸と約30%のアスパラギン酸。グルタミン酸のみではない
 確かにアミノ酸系の代表的な物質はグルタミン酸で、うま味について書かれた文献を見てもアスパラギン酸の話はあまり出てこないが、グルタミン酸と類似の構造を持つアスパラギン酸もまた同様のうま味を呈するし、イノシン酸との相乗効果もある。
 自分の舌でグルタミン酸とアスパラギン酸の区別がついたり、それと相乗効果を示す相手がイノシン酸なのかグアニル酸なのかが判っちゃたりするのならまだしも、そんな区別は普通はつかないだろうし、だったらわからないのにわざわざ「グルタミン酸」「イノシン酸」などと特定した言い方をする必要も、根拠も、妥当性もない。
 つまり、自らの舌での実感でもないのに、これはこういう物質のせいらしいという知識で、あたかも自分が感じている味を理解した気になっているにすぎない。豊かな広がりを持つ「味」を、不正確で小さな枠に不当に閉じ込めているともいえる。
 評論家ならまだしも、少なくとも作り手側のボキャブラリーではないと思う。いや、評論家だって使い方には気を使うべきだ。
 
 ところで、『ラーメン発見伝』のセリフ。
 
こ、このイノシン酸、グルタミン酸、コハク酸、グアニル酸が繰り広げる凄まじい旨味の相乗作用はどうだァ!?
 
 列挙されているうま味物質の中にさりげなくコハク酸が紛れ込んでいる。コハク酸は貝類に多く含まれる物質で、このシーンの場合、ダシにホタテの干し貝柱が使われているので書かれたんだろう。だからおそらくこのラーメンはコハク酸由来の味はするのだと思うが、コハク酸とグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムなどとの間に味覚上の相乗効果はない。これは単純に『ラーメン発見伝』が間違っているんだと思う。
 
 でも、別になくたっていいんだよ。
 そんなの関係ないもの。
 でも、このラーメンのウマさの根拠が本当に「イノシン酸、グルタミン酸、コハク酸、グアニル酸が繰り広げる凄まじい旨味の相乗作用」なのだとしたら、コハク酸と相乗作用してないこのラーメンは、実はウマくないってことになる。
 
 んなわけないよね。
 味わってみて、うま味が無茶苦茶出てるってことだけは間違いないんだから。
 
 だったらやっぱり、「うま味が非常に強く感じられる」でいいんだよ。
 
 
 そもそも、と思う。
 うま味の相乗効果の話だけなのであれば、そんなものはハイミーなりを使って簡単に出せちゃうのだ。むしろ化学調味料はうま味物質を単独で引っ張り出して来ている分、計算も簡単で、うま味の相乗効果の話だけでいえば分がある。
 化学調味料をあえて使わない店であれば、ダシ食材を駆使してうま味の相乗効果を実現する工夫をすることになる。
 つまり化学調味料否定派であろうと肯定派であろうと、今では「うま味の相乗効果」なんていうのは駆使できて当然の前提条件なのであって、それを殊更に言ったところでホメ言葉になんかならない。
 むしろ化学調味料だけでは絶対に出せない、うま味の相乗効果とは関係ないような味こそが、そのラーメンのウマさに対するホメ言葉になるはずなのだ。
 
 まあうま味の相乗効果によるうま味の強さをホメることがラーメンへのホメ言葉になるかどうかというのはさほど大きく主張できることではないかもしれない。だからこれはついでに聞き流してくれればと思う。
 
 いずれにせよ、実際に食べ物を食べた感想として自分で感じてもない「××と△△とのうま味の相乗効果が……」なんて言葉はあまりに貧弱かつ不正確なボキャブラリーだ。こんなつまらない感想は何の意味もない、という話ですよ。

 このサイトに、いくつかの文献から引用した、ダシ材料は食品に含まれるうま味成分の組成のグラフがある。
 
 干し貝柱にはイノシン酸ではなく豊富なグルタミン酸が含まれていたり(このグラフにはコハク酸の区分がないのでコハク酸については書かれていない)、鶏ガラやサバ節にはイノシン酸が含まれずグルタミン酸のみであるとか、意外な事実が読み取れる。
#資料によって数値がずいぶん違う場合も多く(そりゃ別々の試料で分析するんだから)、そのまま鵜呑みはできないとは思う。
 
 ここで「意外な事実」と書いたのは、うま味について調べるとたいてい、昆布やチーズの主なうま味はグルタミン酸、鰹節や煮干といった魚類、牛肉や豚肉などの動物の主なうま味物質はイノシン酸、干ししいたけのうま味はグアニル酸、貝のうま味はコハク酸……といった話が出てくるからだ。
 これらは正しくはあるけれど、もちろん全部が全部当てはまるわけではないし、1つの食材がたった1種類のうま味成分だけを持っているわけでもない。
 だからコハク酸の代表的な食材として挙げられる貝柱に豊富なグルタミン酸が含まれていたり、動物である鶏ガラや魚であるサバ節の主なうま味がイノシン酸ではなくグルタミン酸だと言われると、意外に思ってしまう。
 
 もちろん食べ物を味わう上でこんなことを知っている必要はない。
 知っていたって勘違いもある。
 知識なんてそんなものだ。
 
 しかし勘違いしてたところで味が変わるものでもない。うまいものはうまいのだし、マズいものはマズい。
 
 だから、

こ、このイノシン酸、グルタミン酸、コハク酸、グアニル酸が繰り広げる凄まじい旨味の相乗作用はどうだァ!?
グルタミン酸とイノシン酸のうま味が爆発してますよ!
 
 はやっぱりカッコ悪い。

突然食いたくなったものリスト:

  • インデアンカレーのカレー

本日のBGM:
ラーメンライスで乾杯 /遠藤賢司





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