つい先日の2013年3月6日、福岡地裁である判決が出た。
「元祖ラーメン長浜家」(福岡市中央区)が、近くで営業する同じ名前のラーメン店を商標権侵害で訴えた裁判。
・いわゆる「元祖長浜屋」系ラーメン店が新規開店で合計4つどもえへ【追記あり】(2010/07/15)
・同じ「元祖ラーメン長浜家」2店の屋号争い、判決へ 福岡地裁
・ラーメン「長浜家」2店の訴訟 福岡地裁、屋号差し止め請求棄却
・福岡の同じ長浜家「使用を許可」 ラーメン訴訟、原告敗訴
・同じ「元祖ラーメン長浜家」屋号認める、福岡地裁、原告の差止請求棄却
・すぐ近くの長浜ラーメン「同じ屋号OK」の理由
・元祖ラーメン長浜家事件
・長浜ラーメン訴訟 双方の訴えを棄却
これらのサイトから得られる情報で経緯を再構成すると……。
原告も被告も、「元祖長浜屋」(1952[昭和27]年創業)で働いていた。ここは「替え玉」発祥の店とされる老舗。
原告、被告が共に働いていた元祖長浜屋の看板(本店移転前)
2009年12月に原告が「元祖長浜屋」から約30m離れた場所で「元祖ラーメン長浜家」として独立。その際、被告もそちらに移った(読売の記事では被告と「一緒に開業」とある)。
その後、2人の間で運営を巡ってトラブルが生じ、2010年4月に被告が独立。「元祖ラーメン長浜家」から約50m離れた場所に、まったく同じ屋号の店をオープンした(「約100m」という記事もある。屋号は読みも同じ「ながはまけ」)。
左が原告、右が被告
そこで原告はまず6月に屋号を商標登録し、7月に被告に対して屋号の使用差し止めと損害賠償を求め提訴した。
裁判所の和解勧告を受けて、被告が「元祖長浜家ラーメン」とする案などが挙がったが、原告側は「被告側が提示した変更後の看板案は、字体はそのままで一見した印象もほぼ変わらない」と更に条件をつけたが、結局、和解交渉は決裂し判決に至った。
判決は、運営を巡るトラブルの中で原告が「店の名前を使って自分で経営すればいい」という旨の発言をしていたこと、被告が独立する際に「元祖長浜家」の屋号使用について原告が「異議申し立てをしない」旨の覚書を交わしていることなどから、「原告が同じ屋号の使用を許可していた」として請求を棄却した。
原告側は控訴する方針とのこと。
なるほどなあ。
うーん。
まあ訴状を見たわけでも判決文を見たわけでもないけれど。
もともとは2人とも「元祖長浜屋」の従業員なんだよねえ。
もともとの店からわずか30mしか離れていない場所で同じラーメン屋を開いて、しかもそれが「元祖長浜家ラーメン」という名前だって時点で、もういろいろアレだよね。このあたり「元祖長浜屋」との関係はどうなってるんだろうなあ。決していい関係じゃないように思えるけれど。
しかしまあ、ほんと、このパチモン臭がプンプンする名前だよ。
全然違う名前で独立すればそれはその名前として本物の店だけど、「元祖長浜屋」に対して「元祖長浜家」って、これ、マガイモノ以外の何者でもないもの。実際、地元じゃない観光客にはどう映るか。「ながはまけ」と読ませるところがまたセコい。ほんと、志の低さ、卑しさすら漂う。で、そのパチモンさんマガイモノさんが2人でどっちが本物かと争っているように見える。どっちもニセモンだろー。
もちろん私は地元のことはわからないけどね。
もともとの「元祖長浜屋」が地元で非常に愛されているというのは、この記事↓などを見てよくわかった。
・トンコツラーメン「元祖長浜屋」閉店か再開かで大騒ぎ(2007/6/20)
そして「ナガハマヤ」という名前の店が乱立する状況を地元の人がどう見ているか、というのはこのあたり↓からもうかがえる。
・【福岡】博多長浜ラーメンの元祖中の元祖『元祖長浜屋』に行ってみた / タクシー運転手から『長浜屋』にまつわるイイ話も飛び出した!
ということで、複数の九州出身者にオススメのラーメン店を聞いてみたところ、かなりの確率で「長浜屋が有名やね」との返事が。みんながオススメする長浜屋とは何ぞや? そんなに美味いのか? タクシー飛ばして行ってみた!
……のだが、タクシーの運転手さんから逆に質問されたのである。「どこの長浜屋ですか?」と。一体どういうことだろうか。「えっ?」と反応すると、運転手さんは嬉しそうに語りはじめたのだった。 ――と運転手さん。そしてタクシーが停まったのは、『元祖長浜屋』なるお店だった。入店する前に、あたりをグルリと偵察してみる。すると……確かに “ナガハマヤ” チックなお店がいくつかある。強烈なのは、道端に「『元祖長浜屋』はこちらです」と書かれたデカイ看板があったこと。「本物はウチだ!」と言わんばかりの、静かにピリピリしたムードである。 (略) ちなみに博多滞在中、何台かのタクシーに乗車し、数名のタクシー運転手にも「長浜屋」についての話を聞いた。すると、みな『元祖長浜屋』の分裂騒動は熟知しており、まるで持ちネタのように長浜屋ストーリーを語ってくれたのである。 何人かの運転手さんは、心配そうに「どこの長浜屋に行かれたんですか?」と聞いてきた。私(記者)のiPhoneに入っている『元祖長浜屋』の写真を見せると、なぜかみなニコリと頷き、安心した表情をしていたのだった。 |
この記事でいう「あまり円満でないかたちで長浜屋の味が分裂してしまったということらしい。お店の場所も近いし、名前も完全に同じじゃないけど一文字違いとかでソックリ」、上記の経緯の、原告が「元祖長浜屋」から約30mのところで開業、被告がそこから約50mのところで開業したという話、「長浜ラーメン訴訟 双方の訴えを棄却(RKB毎日放送)」に「現在では、わずか80メートルほどの範囲に、元祖・長浜とついた店名のラーメン店が複数あります」とある……などをまとめて考えれば、ここでいう「その長浜屋があったブロックに、数軒の “ナガハマヤ” が出来ちゃった」というのはやっぱりこの2つの「元祖ラーメン長浜家」のことなんだろう。長浜家の読みは「ナガハマケ」だけど、地元の人は普通に勘違いしているようだし、この読み間違えをあえて誘導する名前だよね、「長浜家」は。
地元でもこういう認識をされていると。
しかも名前だけではなく、看板も。
「元祖長浜屋」の看板がこれ↓。
元祖長浜屋
本店移転前の看板
2つの「元祖ラーメン長浜家」どうしがソックリだとか、和解交渉の時に「被告側が提示した変更後の看板案は、字体はそのままで一見した印象もほぼ変わらない」とか、いやいやそういう問題かいな。2つとも「元祖長浜屋」の看板に「字体はそのまま」でソックリじゃない。┐(´~`)┌
とはいえひょっとしたら「元祖長浜屋を忠実に継承したいい店」というような評判もあるかもしれない。あるいはこの名前を「卑しい」などといってしまってはいけない事情があるのかもしれない。
というのも……。
・いわゆる「元祖長浜屋」系ラーメン店が新規開店で合計4つどもえへ【追記あり】(2010/07/15)
などを参考に一連の話を時系列で並べると、こういうこと↓になるようだ。
元祖長浜屋(本店・支店)で営業 | |
2008/04
|
元祖長浜屋(本店)が閉店 |
2009/12
|
元祖長浜家(原告)が開店 |
2010/03
|
元祖長浜屋(支店)が閉店 |
2010/04
|
元祖長浜家(被告)が開店 |
2010/05
|
元祖長浜屋が移転再開 |
2010/06
|
元祖長浜家(原告)が「元祖長浜家」を商標登録 |
2010/07
|
元祖長浜家(原告)が元祖長浜家(被告)を提訴 |
2013/03
|
福岡地裁にて一審判決。請求棄却 |
ややこしいが、注意深く見てみると元祖長浜屋はまったく営業をしていない時期がある。
元祖長浜家のオープンは、元祖長浜屋本店閉店の後、支店閉店の少し前だ。
店が閉店するということは、従業員が職を失うということだ。
従業員だって食っていかにゃならん。
どのくらいの元従業員が移ったのかわからないけれど、従業員の再就職という意味で、元祖長浜家のオープンは元祖長浜屋の後継たる資格はあったのかもしれない。
ただ、上記引用元によると、この他にも2010/08にはこちらも元祖長浜屋の元従業員による「名物元祖長浜ラーメン長浜屋台」という店が開店しており、これに対して元祖長浜屋の主人の話として
「のれん分けしたわけではない。同じようなラーメンを提供されるのはいい気分ではないが、決めるのはお客。選んでもらえるように努力するだけ」
とあるところを見ると、やはりこれらの店と元祖長浜屋との関係はあまりよくないのだろう。
いやはやまったく、複雑な話だ。
突然食いたくなったものリスト:
- コンソメWパンチ
本日のBGM:
Neo STARGATE /ももいろクローバーZ
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