化学調味料関係のとりあえずのメモ(その4)

 うま味や、化学調味料についてのメモ。
 まだ続く。

 これらは主に『うま味の文化・UMAMIの科学』(山口静子監修)、『グルタミン酸の科学―うま味から神経伝達まで』(栗原堅三,渡辺明治,小野武年,林裕造)、あるいはネット上の情報による。

  • うま味と後味
    試料を口に含み、飲み込むか吐き出したときの味の強さの変化を測定すると、図のようになる。



    酒石酸(酸味)や塩化ナトリウム(塩味)は口に含んだ時がピークで、その後急速に減少し消失する。塩化ナトリウムは酒石酸よりも少し持続が長い。それに対してグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムは、口に含んだときただちにピークが現れるが、そのピークは吐き出した後に復活し、持続性も大きい。
    MSGやIMPのピークが後味にも現れる理由の1つは、飲み込んだり吐き出したりすることで試料が口腔の奥まで拡散したときにうま味の感受性部位が一気に刺激されるためで、長く持続する理由としては刺激部位からの試料の脱着しにくさが考えられる。
    (味の素を直接舐めたときにぼわわ~んとした感覚がなかなか舌から取れないのも、この「試料の脱着しにくさ」のためということだろうな)

  • 味の持続性は大きな意味を持っている。レモンや酢の物が口中をスッキリさせる理由の1つは、酸味のピークが急速に消失するから。それに対してポタージュやビーフステーキの味はしばし口中にとどまり余韻を残す。うま味は食物の味わいを持続させ、しかも続いて味わう食物のうま味を相乗作用によって強める働きもする。



    (つまり食事の順番もまた、意識的にであれ無意識的にであれ、味体験に大きく影響するということだろう)

  • 自然界にはいろいろな種類のアミノ酸が存在するが、アミノ酸の味は下図のようにさまざま。しかしいろいろなアミノ酸の味がすべて甘味、苦味、うま味のどれかにきちんと分類されるのではなく、複雑な味をもつものもある。たとえば、アルギニンやメチオニンは、苦味アミノ酸と分類されているが、ただ苦いというだけではなく独特な嫌みのある味をもっている。
    各種アミノ酸の味

    甘味 グリシン、アラニン
    微甘味 セリン、トレオニン
    苦味 メチオニン、ヒスチジン、バリン、
    ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、リシン
    微苦味 チロシン、フェニルアラニン、アルギニン
    うま味 グルタミン酸ナトリウム
    微うま味 アスパラギン酸ナトリウム

    [金子武夫,日化,60,531(1939)]

  • 昆布
    乾燥昆布に含まれている全遊離アミノ酸の60%以上がグルタミン酸、約30%がアスパラギン酸で昆布の強いうま味は、これらのアミノ酸による。

  • ↑乾燥マコンブ中の遊離アミノ酸
    アミノ酸 mg/100g アミノ酸の味
    アスパラギン酸 823 微うま味
    トレオニン 3 微甘味
    セリン 11 微甘味
    グルタミン酸 1608 うま味
    プロリン 49  
    グリシン 4 甘味
    アラニン 52 甘味
    バリン 7 苦味
    シスチン 0  
    メチオニン 2 苦味
    イソロイシン 4 苦味
    ロイシン 4 苦味
    チロンン 5 微苦味
    フェニルアラニン 3 微苦味
    トリプトファン 0 苦味
    リジン 4 苦味
    ヒスチジン 0 苦味
    アルギニン 5 微苦味
    総遊離アミノ酸 2585  
  • ↑昆布に含まれるアミノ酸だけでもこれだけある(それぞれ呈味力が違うので含有量が必ずしも指標にはならないが)。グルタミン酸のうま味が大半であるとはいえ、グルタミン酸=昆布の味ではない。
  • 生の昆布自体はそれほど味がないのに乾燥昆布に強いうま味を感じるのは、乾燥中にアミノ酸の組成や量が変化するからではない。天日で乾燥することで海藻独特のあまり好ましくない味や香りがなくなることにより、グルタミン酸やアスパラギン酸によるうま味が生きるから。
  • 昆布を普通の方法で煮出して作ったダシには、うま味を示すほどグルタミン酸が入っていない。カツオプシで作ったダシの中にも、高濃度のIMPは入っていないので、ほとんどうま味がしない。ところが、コンプとカツオプシの両方を使って作ったダシは、うま味の相乗作用のため強いうま味がする
    (なんかこれで謎が解けた気がする。自分でダシを取ってみても、ほんとに薄いと感じてた。プロは凄く濃いダシを取ることができるのかなあと思ってた)

  • 油脂による「疑似うま味」
    揚げ物や炒め物にすると、塩味がマイルドになるが、これがだしの作用とよく似ている。油がこのような「疑似うま味」作用を持つのは、油が舌の表面に広がって、塩の直接の味覚刺激を和らげるため、という意見と、油脂が微少な粒になって水の中に浮遊(乳化)して、鋭い塩味を感じさせないため、という2つの説がある。おそらくその両方が相まって、一種のうま味を感じさせるのだと思われる。

  • 肉そのものや、そこに含まれる脂肪分の臭みをいかに消しておいしく食べるかという工夫を重ねてきた欧米の食文化とは対象的に、日本では昆布やかつお節からうま味成分であるグルタミン酸や核酸をいかに効率よく取り出すかに人びとは工夫を重ねてきた。
  • グルタミン酸を摂取するとそのまま使われるか
    グルタミン酸は必須アミノ酸であり、食物から摂取されたグルタミン酸がそのままの形で各組織で利用されることはほとんどない。
    人は毎日の食事で1日約20gのグルタミン酸を摂取しているが、その大部分は腸管で代謝されて腸管に必要なエネルギー源として利用されたり、生体防御物質であるグルタチオンの合成に使われている。各組織で必要なグルタミン酸は、それぞれの組織で新たに合成されている
    (つまり「その2」で書いたように、グルタミン酸を摂取しても吸収されて分解される。使用されるグルタミン酸はそれとは別に新たに合成されるのだと)

  • グルタミン酸の安全性
    グルタミン酸はタンパク質中に最も多く存在するアミノ酸であるから、われわれは毎日の食事でかなりの量(1日約20g)のグルタミン酸を摂取している。したがって、グルタミン酸は本来安全性の高い物質であるとみなされてきた。ところが、1960年の後半から1970年代にかけて、グルタミン酸の安全性に疑いを投げかける報告が相次いでなされた。
    第1の報告は、生まれたばかりのマウスに大量のグルタミン酸を注射すると、脳の視床下部の一部の神経が細胞死するというもの。
    第2の報告は、中華料理を食べたあとに、その中に含まれているグルタミン酸により、顔がほてったり、頭痛がしたり、動悸がするといった症状(中華料理店症候群 Chinese Restaurant Symdrome, CRS)がみられたという報告。

    JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)はMSGを中心にグルタミン酸について安全性評価を実施し、1973年の会合においてL-グルタミン酸を含む5物質について「0~120mg kg体重^-1 day^-1」のADIを設定した。
    許容1日摂取量(Acceptble Daily Intake,ADI):認められるような健康上のリスクを伴うことなく生涯にわたり毎日摂取することができる、単位体重あたり(標準的な人=60kg)で表現された食品添加物量についてのJECFAによる見積もり。
    またこの会合において上記「第1の報告」について議論され、このADIは生後12週前の乳児には適用しないとされた。

  • ↑その後、グルタミン酸の安全性について多くの研究が行われた。
    第1の報告(生まれたばかりのマウスに大量のグルタミン酸を注射すると、脳の視床下部の一部の神経が細胞死する)については……
    食物の成分を注射して安全性を議論することはいささか的外れの議論で、その後の研究では、大量のグルタミン酸を口から摂取しても大部分のグルタミン酸は消化管で代謝され、全身を回る血液中には移行しないことが明らかにされた。したがって口から大量にグルタミン酸を摂取してもグルタミン酸が脳に移行することはありえないと結論されている。
    第2の報告(中華料理を食べたあとに、その中に含まれているグルタミン酸により、顔がほてったり、頭痛がしたり、動悸がするといった症状(中華料理店症候群 Chinese Restaurant Symdrome, CRS)がみられた)については……
    その後の二重盲検法による検査により、グルタミン酸摂取と中華料理店症候群の間には有意な関係はないと結論されている。

  • ↑中華料理店症候群についての色々な実験の中で興味深かったのは、グルタミン酸ナトリウムに敏感(6症例)であると主張している人を対象に、プラシーボを用いた二重盲検比較試験。この試験で6gのMSGの摂取に対する反応を検討したところ、2例はMSGとプラシーボの両方に陽性の反応を示し、ほかの4例は両者に対しまったく反応を示さなかったという。
  • ↑中華料理店症候群とMSGの関係は否定されつつあるが、いわゆる中華料理店症候群あるいは食後にみられる非特異的な症状の発現に関して、次のようなメカニズムが考えられている。
     1)アセチルコリン中毒:アセチルコリン投与により発現する症状に似ている
     2)ヒスタミン中毒:中華料理およびその食材にヒスタミン含有量の高いものが多い
     3)血漿中ナトリウム濃度の増加:中華料理のナトリウム含有量は一般に高い
     4)ビタミンB6欠乏:ビタミンB6を補足すると,いわゆるCRSの症状の発現抑制に効果がある
     5)食道上部の刺激:いわゆるCRSの症状が上部食道の刺激に由来する症状に似ている

  • その他多くの試験結果に基づき、1987年、JECFAはグルタミン酸のADIを、”0~120mgkg体重^-1day^-1″から“ADIを特定しない(ADI not specified)”に変更した。なおその際に、「グルタミン酸の使用に関して妊婦および乳児を特別に扱わなくてはならない科学的根拠はないが、食品添加物の一般的見解としてグルタミン酸についても生後12週以前の乳児には使用すべきでない」という文章が追加されている。その後EU委員会および米国FDAもこの結論を支持している。

突然食いたくなったものリスト:

  • ほっけ

本日のBGM:
Turbo Lover /JUDAS PRIEST






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