【2017年5月再アップ時の追記】このエントリは2008年6月にオリジナルのものを上げました。この頃はまだ化学調味料(うま味調味料)について漠然とした印象しか持っておらず、ここのエントリでも「使うのはいいとして、おおっぴらではなく隠れてやってよ」という趣旨のことを書きました。その後、このエントリをきっかけに、「ラヲタを名乗るのであれば化学調味料(うま味調味料)については一度、ちゃんと調べておくべき」と考えていろんな文献などを当たり勉強しました。この話題は人によっていろんな立場があり、たいていの場合荒れてしまいますが、何にせよ考えやスタンスを確立するにはまず情報がないと判断ができないと思います。
調べたこと、考えたことについてはその後いろんなエントリとして上げています。このエントリの末にリンクを張っていますので、是非読んでみてください。ネットでタダで読める化学調味料(うま味調味料)についての資料としてはかなりの充実度になっていると思います。
「うちは味の素なんか使ってへんで。うちはな、ハイミーや」
と、自慢げに話したラーメン屋のオヤジがいたとか。
ハイミーは味の素の2倍以上するので、「高級品を使っている」という素朴な自慢なわけだ。
化学調味料の有害性云々の問題については私はあえて踏み込もうと思わないし、自分が自分で家で食べる分には使うことに抵抗はない。
ラーメン屋でも、使われて気持ちのいいものではないが、たいていの場合は使用していてもわからない(世の中にはすぐわかる人もいて、凄いと思う)し、最終的にうまくなるのなら許容してもいいと思っている。
ただ、それは客の立場からの話であって、作る側にそれを言われるのはイヤだと思う。その分の手間をかけないと宣言しているようなものだから、他の部分でもそういう姿勢でやってるんじゃないかと思ってしまう。だからあえて「化学調味料不使用」と謳っているところはがんばってほしいと思う。
で、普通は冒頭のような無邪気な店主はそれほどおらず、たいていは化学調味料の使用は隠す、客も疑問を持ちながらもあえては問わないというのが、ラーメン屋と客との不文律になっている。
安い店やチェーン店なら「ああ、そりゃ使ってるでしょ」と織り込み済みで行くわけだし、そうでなくても調理台の上にある白い粉の入った入れ物を見かけたら、「ああ」と思いつつ、声を呑み込む。そんなもの。大人だもん。
アイドルだってエッチはしてるだろうけど、あえて「やってます」とか、「あなたはやってますか?」と聞く人はいないでしょ、という感じかな。やってそうだと思っていても、1%の可能性を残してそこにはあえて触れないというか。違うか。違いそうだがわかってくれ。
繰り返して恐縮だが、私は店側が化学調味料を使ってもいいじゃん、と言うのはイヤだ。それは「有害性」云々だからではなく、味にかける手間を省きますと宣言しているようなもので、その姿勢はそれ以外の別の部分にも出てくると思うから。
少なくとも露わにしない、というのがたしなみではないのかと。
で、私は今回、あるスジから(^O^)なかなかショッキングな資料を入手した。
「味の素」「ハイミー」でおなじみの味の素KKが制作した、対象をラーメン屋に絞った業務用商品の販促小冊子。
おそらく全国のラーメン屋にDMで送っていると思われるので、かなりの量が出回っているはず。ググってみると、全国には38000軒くらいのラーメン屋があるそうだ。(^O^)
この小冊子、題名は
「明日のラーメン界を担う精鋭に贈る、独立企業支援ブック
ラーメン界のリーダーたちに聞く独立奮闘秘話
オレの味を探せ!」
という。「ラーメン界のリーダーたち」とは、
東池袋大勝軒 山岸一雄
ちばき屋 千葉憲二
くじら軒 田村満儀
なんつッ亭 古屋一郎
の4人。
東池袋大勝軒の山岸一雄氏といえばラーメン好きでなくとも知っている、ラーメン界の伝説的人物だ。去年の7月に東池袋大勝軒が閉店した時には報道ステーションなどでニュースとして報じられたくらいで、私も一度は食べてみたかったと思っている。
ちばき屋の千葉憲二氏は、最近名前を知った。どうして知ったかというと、この人、今年の4月に正式発足した日本ラーメン協会の会長(訂正:理事長)なのだ。この協会自体、何がやりたいのかイマイチはっきりわからないんだけども、まあとにかく、初めての全国的ラーメン屋組織のトップに君臨する男、ということになる。(^O^)
くじら軒はなんばパークスにあったラーメンコンプレックス「浪花麺だらけ」に店を出していた。食べたこともある。あまりうまいとは思わなかったけど、有名店らしい。
なんつッ亭は名前と店主の顔しか知らない。店主の顔は昔、テレビで見たのだと思う。
というわけで、全部関東の店ながら、大阪の私でもそれぞれなんらかの形で知っているほどの店だ。「ラーメン界のリーダー」なのかどうかはわからないけれど、ひとかどの「成功者」であることは間違いないだろう。
さて、その「成功者」たる彼らがここで語るのは、実にショッキングな事実であった!(大げさ (^O^) )
彼らが語るのは、彼らの「うま調」の使い方。
「うま調」とは競走馬調教師のことではなく、うま味調味料=化学調味料のこと。味の素KKの販促冊子だからして。
大勝軒山岸: グルタミン酸、イノシン酸…『うま調』はうま味の固まりだよね。一年を通じて四季があるように、素材の状態も毎日移り変わる。大事なのは、その変化を感じて自分の味に調整していく力なんだ。その過程で味をまとめてくれるのが『うま調』。オレにとっては、ずっと親しんできた安心できる味。これ無しでは『大勝軒』の味は出せないよね。 |
山岸氏にそう言われてしまうと、そうですかと言うしかないよねえ。そうですか、「これ無しでは『大勝軒』の味は出せない」ですか。……うーん。
ちばき屋千葉: 今手に入る素材は、絶対的にはうま味が足りないんだよね。だから『うま調』を使う。もちろん『うま調』に頼りすぎるのは論外だよ。味のバランスが取れたスープに、更に『うま調』で味を足してやるんだ。料理の味を引き立たせるのが『うま調』。オレの感覚では、『うま調』の入ってないうまいラーメンってのは、ちょっと考えられないんだよなぁ。 |
えええええ。
「『うま調』の入ってないうまいラーメンってのは、ちょっと考えられない」って……。まままままま(仁井原調)まじですか?
日本ラーメン協会会長……。_| ̄|○
くじら軒田村: 自分は『うま調』の味が好きなんですよ。だから自信持って入れてます。同じ味を自然の材料で出したら、びっくりする位のコストになってしまうしね。昆布なら、3倍は入れないとこの味は出ないですよ。『うま調』を上手に使えば、びっくりする位味の良いスープができる。もちろん使い方によるけれど、ラーメンに入れるにはとてもいいものだと思いますよ。 なんつッ亭古屋: |
「『うま調』の味が好き」って言われちゃうと、それ以上何も言えないよなあ。
客から見るとショッキングな画像。(^O^)
大勝軒山岸: 「素材の状態も厨房の状況も、全く同じ日っていうのは無いからね。スープの機嫌を見ながら最後にバランス良く『うま調』を加えれば、味をうまくまとめてくれる。決して『うま調』を入れれぱいいと思っちゃいけない。『うま調』を使いこなしてやろうっていう気持ちが大事だね。ラーメン屋は毎日が勉強の連続。満足したらそこでおしまいなんだ」 |
山岸氏が言うと何でも「まあこの人が言うなら」と思ってしまいそうになるのがどうにもなあ。(^^;
ちばき屋千葉: 「結局素材も調味料も、本当にいいもんの味を知らないやつには、いい味は作り出せないのさぁ。それだけ飲んでも十分うまいスープに『うま調』を足すと、味のレベルがグッと引き上がる。このバランスが腕の見せどころさあ。スープ、麺、具材…それぞれ食べてもおいしいもんを、一つの丼に合わせたのがうちのラーメン。基本の味をきっちり作れないと、いくら『うま調』を使ってもいい味のものはできないんだよな」 |
「それだけ飲んでも十分うまいスープに『うま調』を足す」必要がどこにあるのか、わからんのだよなあ。
くじら軒田村: 「うちでは、『味の素』とい『ハイミー』を50:50でブレンドして使ってるんですよ。『ハイミー』には昆布とかしいたけとか、いろんなだしの素も入ってるから。『うま調』を使えば、スープに使う昆布の量が1/3程度で済む。コスト的にも本当に助かってますよ」 |
このあたりが本音だろうなあ。
その意味ではやはり経営者の味方だわな。
化学調味料は、「時間」。そして「時間」=「お金」なのだ。
しかしそうか、ブレンドの割合にもこだわりがある。(^O^)
これはこれで極めると凄いのかも。
なんつッ亭古谷: 「自信を持ってお客さんにお出しするために、自分でも色々調べたんですよ。『うま調』は、言ってみれば『アミノ系調味料』だな、と言うのがオレの結論。もちろん摂りすぎは良くないけど、それはしょうゆでも味噌でもスポーツ飲料でも同じこと。店のホームページにも『うま調』使ってます、と胸を張って書いてますよ」 |
店のホームページ(http://www.nantsu.com/index.htm)では、そういう記述は見つけられなかった。探し方が悪いんだと思う。
01 スープに使う
まあ買う側に「悪くないんですよ」とプロパガンダする冊子だからして……。
(^^;
大勝軒山岸: 「長時間煮込んで、スープがほぼ出来上がったところでバーーーツと『味の素』をでっかい鍋に振り入れるんだ。スープの味を見て、量は感覚で調整する。『味の素』の缶を両手に持って入れてたから『二刀流』なんて言われたりしてたね」 ちばき屋千葉: 「色んな素材から、精魂込めてだしを取る。しょうゆ、塩、砂糖で味付けして、それだけで十分『うまいっ!』と思えたスープに、最後に『味の素』を入れるのさぁ。適量入れると、びっくりするような深い味わいになる。その分量の見極めが『職人の腕』だね(笑)」 くじら軒田村: 『ハイミー』と『味の素』を50:50の割合で穴の空いた缶に入れ、丼にパッパッバッと3振り入れてます。入れるのと入れないのとじゃ、味が全然違うんだよね。塩かどが取れてまろやかになる。お客さんに『入れないでくれ』って言われれば抜くけど、『入れたほうが美味しいのになあ』って内心思ってます(笑)」 なんつッ亭古谷: 『味の素』は大体スプーン1杯、丼に直接入れてますよ。お客さんの顔を見ながら、さじ加減を微妙に調整したりね。女性はスープを飲まない方も多いんで、ラーメンの味を印象付けるために少し多めに入れたりもします。とんこつに限って言えば、『味の素』を入れたほうが格段にうまくなる。スープのゴツゴツ感を丸くしてくれるんですよ」 |
あまりにあっけらかんとしている。
しかしちばき屋、ほんと、十分うまいならそれで満足してくれ。
何というか、上の3人はまだ、世代的にアリだとは思うのよ。高度成長期世代というか。
でもなんつッ亭古谷氏まで同じことをやって、ほんとにそれでいいんだろうか。
02 元ダレに使う
大勝軒山岸: 「元ダレに『ハイミー』は、入れたり入れなかったりだね。というのは、その日のスープの出来次第で決めてたから。スープのうま味に納得できないときは、元ダレに『ハイミー』を入れて助けてもらってた。かつおなんかの風味調味料を入れるのもテクニックの一つだね。食べたときにおいしく感じることが重要だからね」 くじら軒田村: |
「かつおなんかの風味調味料」ってのは、ほんだしとかのことなんだろうな。
くじら軒、そこまでやってるんなら、無理に入れなくてもいいんじゃないのか。
03 具材に使う
ちばき屋千葉: 「うちの半熟煮玉子の秘訣は、塩分濃度。ちょうどいい塩加減の漬け汁に一晩漬けて中まで味をしっかり入れると、プリプリした良い味の半熟煮玉子が仕上がるのさぁ。漬け汁に『ハイミー』入ってるかって? もちろん入ってるよ。しょうゆ、みりん、酒なんかの調味料と一緒にね」 なんつッ亭古谷: 「市販のメンマには、たいてい『うま調』が入ってますよ。やっぱり味付けに欠かせないもんなんですよね。チャーシューの漬けだれも同じこと。うちのチャーシューは、必ずお客さんに出す直前に切るんです。前もって切っておくより絶対おいしいからね。そんな小さなことからでも、作り手の熱意は必ず伝わるから」 |
伝わるだろうか、その熱意……。
いやその、ほんと、ねえ。
いや、いいんだけど……。
うーん。
あああ、アイドルがラブホテルから出てきたところの写真を公表したような気分だな。
大人気ないというか。
いやでも、うーん、やっぱりショッキングな冊子だった。
18歳未満は真似してはいけませんよ、やっぱり。
こんな感じ。
詰まるところは味向上ではなく、コストダウンという文脈の話だからして。
そして、その後ろめたさに対して、
「こんな凄い人たちも使ってるんだ。いいんだな」
と背中を押すための冊子なんだよね。
いやはやびっくらこいた。
追記(2011/04/28):
コンスタントにアクセスがあるので、一応他のエントリにもリンク貼っておきます。
まあ気が向いたら読んでみて。
・短絡的なのはどっち?
・自重しない化調
突然食いたくなったものリスト:
- マカロニグラタン
本日のBGM:
Joint /RIP SLYME
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